ロングボールの差。リバプールが抱える、根本的な問題。

リバプールのロングボールには、現在の不調に繋がっている大きな問題がある。「圧倒的な柔軟性を持つルイス・スアレスという選手を中心にチームが作り上げられていた」せいか、もしくは「ブレンダン・ロジャースがポゼッションを好む指揮官だから」なのかは解らないが、リバプールにはポストプレー型の選手を使う方法論が無い。空中戦の強いリッキー・ランバート、マリオ・バロテッリの2人を獲得したものの、彼らを生かし切れていないのはそのためだ。

ロングボールに対するサポートの足りなさ、が1つの問題だ。この場面のように、ボールを足下に収めたとしても先の展開が難しいようなボールが蹴られることが多かった。その上、バロテッリがCBを背負っている時に蹴られることが多く、「ボールを足下にキッチリと収める」という最も難しいタスクを求めるようなボールが多かったのも印象的だ。

勿論マリオ・バロテッリは強烈なフィジカルを誇る選手ではあるものの、ロングボールの競り合いでは基本的にDFが有利ということもあり、なかなか上手くボールを収めることが出来なかった。収めたとしてもサポートは不満足で、なかなか近い位置に走り込む選手が少なかったのも攻撃を機能させなかった原因である。ボールを持った際のCBのフェイクが少ないのも印象的で、チェルシーのDF陣からしたら「ロングボールが来る」ということが解った状態で待ち受けることが可能だった。

同じロングボールでもチェルシーはと言うと、この場面では対角線へのボールを狙っており、SBと競り合うような意図が込められているため競り勝つ可能性が高くなる。セカンドボールを狙った中盤の走り込みも連動しており、意味のあるロングボールと言えるだろう。ロングボールを蹴ることが多かったケーヒルも、上手くフェイクを使うことで読まれづらくしようという工夫によって相手守備陣を苦しめていた。

これも工夫がみられるチェルシーのロングボールだ。ジエゴ・コスタはサイドに動きながら競り合っており、右サイドバックのモレノはカバーを意識して中央へ。そのため、右サイドにスペースが生まれている。これもボールを完全に収めるというより、「そらす」ことを求めるようなロングボールだ。実際コスタはこのボールをしっかりと味方に繋げている。

試合を決めたチェルシーの2点目も、ロングボールから生まれている。ここでは「守備に劣るコウチーニョがマークにつかなければならない」左サイドバックの裏にボールを出すことで、大きなチャンスを作り出している。

昨シーズンは多く見られた、「ヘンダーソンやスターリングへの裏を狙ったボール」が減っているのも、リバプールの不調を象徴している。組み立てへの参加が求められるせいで彼らが飛び出す余裕を与えられていないこと、そしてチーム全体がマリオ・バロテッリへのボールに依存しすぎていることで駆け引きが減っていること、などが原因として考えられる。

「組み立てに自信を持つ、ポゼッションを得意としたチームが前からのプレスで蹂躙される」という意味では、この試合はASローマ対バイエルン・ミュンヘンを思い起こさせるところがあった。ポゼッションを得意しているチームは格下からプレッシングをかけられるような試合が比較的少ない分、格上が前からプレッシャーをかけてくるような状況に意外にも脆い。そういった意味では、リバプールは慣れない展開に持ち込まれてしまった時点でかなり不利な状況に陥ってしまっていた。

現状のリバプールは「新戦力を上手く使おうとする」意識が強過ぎるせいで、バランスの良い攻撃が出来なくなってしまっている。マリオ・バロテッリを生かそうとする余り、自分たちの本来の長所を消してしまうようなフットボールは言語道断だし、結果としてそれはバロテッリに責任を押し付けるだけになりかねない。

緻密さに拘り過ぎるのではなく、時にはバロテッリを裏に走らせるようなボールや、バロテッリを囮に使った裏への飛び出しなどを使っていけると面白いのだが、今のところ様々な新戦力を併用することで手一杯となってしまっているのが実情だ。チームの基盤とするべき組み立てにも若干手を入れたことで、後ろからのボール回しの精度も上がってきていない。

ブレンダン・ロジャースが本当の名将になるために、乗り越えなければならない壁は高く、厚い。柔軟な気持ちを忘れず、師であるジョゼ・モウリーニョからの苦いレッスンから学ぶことに期待したい。


筆者名:結城 康平

プロフィール:「フットボールの試合を色んな角度から切り取って、様々な形にして組み合わせながら1つの作品にしていくことを目指す。形にこだわらず、わかりやすく、最後まで読んでもらえるような、見てない試合を是非再放送で見たいって思っていただけるような文章が書けるように日々研鑽中」
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