チェルシーの失点シーンについて説明しよう。これは「セスクのプレッシングにおける弱さ」と「ヘンダーソンのプレス回避における役割」がキッチリと噛み合った形でのゴールと言える。
セスクが前からのプレスに参加するものの、ヘンダーソンに前を向かせてしまったことが失点における最大の要因だ。
ジェラードからの強めのパスによって前を向くことが出来たヘンダーソンから、中央で待つスターリングにボールが入る。
ヘンダーソンが良い位置でボールを受けた時点で、ラミレスは右サイドを気にしており、そのポジションはキッチリと中央を埋めるほどではない。そこで、チェルシーの守備の要、マティッチがフリーで受けたスターリングを迎え撃つ。マティッチのここでの問題としては、身体の向きが良くないことだ。走り込む選手を視野に収められておらず、本来ここではもう少し下がったポジションで視野を保つべきだった。
マティッチが釣り出されたところで、フリーで走り込んだエムレ・チャンへ。どうしようもないほどにドフリーである。この向きからマティッチが間に合うはずもない。ここから彼のミドルシュートがDFに当たってコースが変わったことで決まるのだが、ここまでフリーにしてしまっては、ゴールが決まるのも仕方がない場面である。
この時点では、ボランチのセスクが出ていく場合のマネジメントとしての「ラミレスでのカバー」が機能しきれていなかったことが伺える。サイドバックの位置に逃げながら、前からのプレスを誘い出して外してしまったヘンダーソンも見事で、昨シーズンのリバプールが好調時に積極的に試していた、「ジェラードがサイドバックの位置に流れてボールを配球するパターン」を思い起こさせた。
この場面でも、チェルシーの守備は改善しきれていない。上手く間でボールを受けたヘンダーソン。ここには本来セスクが詰めなければならないのだが、中央を守らなければならないマティッチが潰しに向かっている。この後ヘンダーソンにワンタッチで叩かれ、ピンチになりかねない場面が作られてしまう。
そうした状況を経て、GKミニョレへのプレッシャーが顕在化し始めるのが20分過ぎだ。プレッシャーをDFラインの深い位置にまで与えていくように、チェルシーがスタイルを少し変更。戻る意識が高かったラミレスが前に残り、より高い位置からのプレッシングに切り替えた。これが、リバプールの「シンデレラの魔法」を解く。
前半から3つの例として見てもらいたい場面がある。
CBとGKへのプレッシャーを強めることによって、中盤への効果的なパス出しを阻害。それによって、「ラミレスを高い位置に動員すること」で相手の組み立てをより積極的を封じにかかったチェルシー。特にキーになったのが、ラミレスを中央に近い位置に置いた点だ。
リバプールのサイドバックが高い位置に出ていくタイプであることもあり、中盤3人に対して「ラミレス・マティッチ・セスク」でマンツーマンにするスタイルが可能になったことによって、リバプールのポゼッションは封じられた。また、ボール扱いに若干劣るエムレ・チャンはバックパスが多いことが読まれ、それもチェルシーの精度の高いプレスを助けることになってしまっていた。
リバプールの3センターが行っていた組み立ては昨シーズンのように練習に裏打ちされたものと言うよりは、「カボチャの馬車」のように時間制限のある魔法でしかなかった。個々の判断に依存し過ぎた組み立ては、チェルシーの容赦ない対策の前で「徐々に歯車を狂わせ」、最終的に機能を失った。