しかし、日本が英国で奨励されている、「Grass Roots」―「草の根」と呼ばれるような地域密着のフットボールクラブを基盤とした育成を目指していると仮定した場合、海外のサッカーアカデミーの設立はそれを阻害する可能性もある。
例えばスコットランドのセルティックは、「フットボールクラブは、地域コミュニティと強く結びついて育成を進めていくべきだ。地域のアイデンティティを伝えることも、クラブの仕事なのだ」と述べており、出来る限りクラブが地元のタレントを育てていく役割を果たすべきだという姿勢を見せる。
「草の根」的な育成を目指す場合、海外のアカデミーに行くためのコストも問題となるだろう。バルセロナのスクールであるFCB Escolaには奨学金制度も存在しているが、そういった制度が無いクラブもある。「両親が多くの資金を払わないと、良い育成環境が得られない」という状況になれば、それは「草の根」の育成からは遠ざかることとなる。スコットランドでも、「草の根」的な育成を目指す上で「両親が払わなければならない費用」、「送り迎えの手間」、などは改善されるべき部分として挙げられている。
エリート中心の教育は、出来る限り多くの選手に良い育成環境を用意し、底上げを目指すという「草の根」的な発想とは真逆だ。デンマークフットボール協会も、「6歳に満たない子どもに、エリート教育を受けさせるというバルセロナアカデミーの思想」を批判した。
また、恐らく問題となるのは「統一性」の無さである。日本サッカーとして目指すサッカーを実現出来る選手の育成、というものをやっていく上で、様々な国のクラブが作り出すアカデミーの存在は、足並みを乱すことになるリスクもある。クラブが母体となるフットボールアカデミーは、そのクラブの方法で選手を育て、そのクラブで活躍出来る選手を作り出すことを目的にする。そうなってくると、ドイツやメキシコの様に、国として統一性を持った育成計画を練ることが難しくなってくるかもしれない。
今回アカデミー建設を禁止したデンマークは、育成に力を入れている国としても知られている。国としては「4-3-3」という形を継続して教えていくという方向で進んでおり、指導者間での相互理解を深める講習会なども年10回程度行われている。育成で一気に欧州のトップクラスへと駆け上がったベルギーが育成年代でのフォーメーションを固定した様に、統一性のある育成は重要だ。
今回の件については、簡単に明確な答えが出るものではないだろう。海外を資本としたアカデミーの存在には、メリットもデメリットも等しく存在している。「禁止するかどうか」という判断も、デンマークの様に「国のフットボール協会を通して考える」という選択肢もある。
しかしそれでも、我々は考え続けなければならない。デンマークが提起した問題は、グローバル化する世の中において全ての中堅国が向き合っていかなければならないものなのかもしれないのだから。
日本サッカー協会が、そのメリットとデメリットを精査した上で、正しい選択を下すこと。答えがどちらになろうとも、デンマークの様なプロセスが存在することが大事なのかもしれない。