対策を施した理由は…

では、何故、このような変化をクロップがこの一戦で仕掛けてきたのであろうか。

この件についてはあくまでも推論にはなるが、考え得る大きな理由として「PSGの最大の武器を抑える」という狙いがあったのではないかと見ている。

リヴァプールの最大の脅威となり得たのがPSGが誇るアタッキングトリオ。エディンソン・カバーニ、ネイマール、キリアン・エムバペの個人技による無慈悲なまでの「守備ブロック破壊」である。

特にエンバッペは、カウンターアタックの場面になれば、驚異的なスピードを活かして単独で試合を決める力もあり、対戦相手は攻撃時においてもその存在を常に警戒をしなくてはならない。

そこでクロップが手を打ったのが「常に後ろに三枚を残す」というルールを決めたことであった。言い換えるならば、「いかなる状況においても、PSGの前線による攻撃に対応しやすい陣形を取り続ける」というものだ。

高度なサッカーIQを備えるプレーヤーが集結するビッグクラブであれば、試合の流れに応じて選手たちが能動的に戦術的変化を行う場合もある。

そのため、この試合におけるリヴァプールも選手主導で行われたパターンも考えられるが、このメカニズムは試合を通じて再現性や精度が高かったことを考えると、事前に用意してきたという見方のほうが可能性は高いだろう。

ここで話を戻すと、センターバックと共に後ろに残ってリスクマネージメントを行う役割は主にミルナーが担っていた。だが、彼は攻撃時にも重要な役割を担っていた(詳細は後述)こともあり、時間帯によっては彼とDFラインとの距離が開くこともあった。

となると、サイドバックが高い位置を取ることの多いリヴァプールの戦術では、対カウンターアタック時に「センターバックの二人のみでPSGの前線三人を抑える」という危険度の高い状態に陥りやすいのだが、そこに対しても保険もかけていた。

ミルナーが持ち場から離れる際には、ヘンダーソンにその役割をスムーズに継承させていたのである。

さらに、ミルナーらセントラルミッドフィルダーが敵陣サイドで高い位置を取るようなシチュエーションにおいては、両サイドバックを後ろに下げて補完するシステムを取り、ここでも数的不利からカウンターを受けるケースを未然に回避した。

無論、PSGのカウンターアタック発動を抑えられた要因はそれだけではない。

攻撃から守備への切り替えが早かったこと、ネイマールやエムバペにボールが入っても複数で囲い込めていたという点なども好影響を与えていた。

しかし、いずれにせよ、この対策がPSGに効いていたことは間違いないだろう。