徹底的な右攻め
「彼らのシステム変更を予測して我々もシステムを変えたんだ。ネイマールが左サイド、ディ・マリアがセンターでプレーすると(事前に)計画していたので、そこまでディフェンス陣はトラブルを抱えなかったと思う。(中略)ボールを持った時にもネイマールがいる右サイドを使えた。ネイマールはワールドクラスのタレントだが、守備が得意な選手でない。我々はそこを突けた」
試合後にクロップはこのように振り返っていたようだが、ここで触れたいのは「ネイマールのサイドを封じるだけではなく、有効活用してその穴を突いた」という点にある。
トゥヘル政権下のPSGは守備ブロックを敷く際に4-1-4-1の形を維持しながら帰陣するが、中盤における守備力(主に個々のボール奪取力)は決して高くない。それはエムバペやネイマールのように守備時に気を抜いてしまいがちなタレント(さらにこの試合ではアンヘル・ディ・マリアもその一人)にも守備タスクを求めているためだ。
彼らが中盤のサイドに落ちて守備をする際、外から中へのパスを遮断するポジションを取ることが多いため、守備ブロックの外(タッチライン付近)で相手チームにボールを保持されることが多く、そこではサイドバックと共に対応して二対二の状況で注視する場面が度々訪れる。
だが、そのような場面で、彼らは相手の出方を待つ、冷静に構えての守備は苦手だ。
誤ったタイミングでボールを奪いにいってかわされる、もしくは注意を落としてマーク相手を簡単に離してしまうといったプレーから、数的同数にもかかわらず、自らピンチを招きやすいのである。
特に左サイドの脆さ顕著で、ネイマール自体が守備面で問題を抱えていることもそうだが、左サイドバックのフアン・ベルナトに至っても対人戦や一対一の強さの面には信頼が置けるようなタレントではないことも大きい。
「ネイマールの弱点をカバーする」や「個人の力で左サイドを封殺する」という役割は求められるレベルにはなく、攻撃面に特長のあるプレーヤーであるからだ。
(個人的には、ベルナトを使い続けるのではなく、キンペンベを左サイドバックに移す方法やプレシーズンマッチで積極的に起用されたU-20代表のスタンリー・エンソキを抜擢したほうが機能性は高まると考えているのだが…)
そして、この穴を徹底的に突いたのが、リヴァプールの「右攻め」であった。
後ろから率先して右サイドへとボールを運び、ミルナーはサイドアタッカー時代を彷彿させるように大外のレーンを疾走。
スタートポジションは左のセントラルミッドフィルダーであったが、持ち前のダイナミズムで逆サイド(右サイド)にも顔を出し、ムハンマド・サラーやトレント・アレクサンダー=アーノルドらとの連携から幾度となくチャンスを演出。彼が右サイドで起点となることで、PSGの守備陣にプレッシャーを与え続けた。
そして、偶然にもリヴァプールのいずれのゴールも右サイドが起点となったものであった。
先制点となった左サイドからのアンドリュー・ロバートソンのクロスボールも、右サイドを崩した延長線上で生まれたものであり、2点目のPKもジョルジニオ・ワイナルドゥムのドリブルに対して、慌てたベルナトが中に絞った際に足をかけてしまったことが起因したもの。
試合を決めたフィルミーノのゴール(リヴァプールの3点目)に関しても、ペナルティエリアボックスのやや右寄りからフィルミーノが仕掛けたことで生まれたものであった。
まさに相手の弱点を攻略し続けたリヴァプールの戦術遂行力が掴んだ結果と評価できるだろう。
数シーズンに渡って築き上げてきたゲーゲンプレスを懐刀として残しつつ、攻守両面において、これまでには見られなかったカラーを取り入れ始めた「クロップ・リヴァプール」は、サッカー界において驚異的な存在になり得るかもしれない。