ただ、これ以降のロングボールの使い方が象徴的だった。単純にロングボールを蹴るのではなく、センターサークル付近まではシンプルなパス交換やドリブルで持ち運び、コンパクトな陣形を維持した状態でロングボールを使うように修正し、カウンターを回避しているように見てとれた。
試合で出たエラーや課題の修正に対して、「ボールを大事にするサッカー」という基本コンセプトは変えずに、1つの課題に対して攻撃と守備の両局面からアプローチし、チーム力として積み上げることで解決。
女性監督という括りではなく、未だ34歳の若手監督にして、すでにUEFAプロライセンス(日本のS級相当)を保持している確かな手腕だった。
シーズンが進むごとにチームは成熟し、ラスト10試合は5勝3分2敗と同期間内ではリーグ3位の結果を残した鈴鹿。
第26節以降は2勝3分無敗で、その中にはJリーグ入りを狙うクラブの“門番”として君臨するHonda FC(2-1)や“JFL版銀河系軍団”FC今治(2-0)相手の勝利もあった。一度もHondaに勝てずにJリーグへと昇格していったクラブも多い中、鈴鹿はJFL1年目にしてそれを達成した。
また、シーズン前半戦にはソニー仙台FCを相手にアディショナルタイムに同点に追いつかれながらも、94分に“得点王”エフライン・リンタロウのゴールで3-2という撃ち合いを制した。鈴鹿はホームではトップ3を相手に全て勝利を飾ったのだ。
ただ、様々な面で“特徴”を持つのが鈴鹿とミラ監督のJFL1年目だったのかもしれない。リーグでは4番目に多い得点を挙げた半面、失点は3番目に多く、ホームとアウェイ戦での結果には大きな差も出ている。
また、トップ3のチームから勝点9、下位2チームから同10ポイントを挙げながら、勝点が拮抗しているその他10チームからは合計20試合で17ポイントの獲得に留まった。所謂“ザ・JFL”を地で行くようなチームとの対戦には苦労する傾向があるようだが、これはJFL独自の要素でもあるため“受験テクニック”のようなモノが必要なのかもしれない。
すでに6月に筆者が取材した際には、カウンター対策として攻撃時にサイドバックが中央寄りのポジションを取ってパスワークの起点やセカンドボールの回収をこなす“ファルソ・ラテラル(偽サイドバック)”の要素を組み込もうとトライしていただけに、これは来季のお楽しみだ。