勝負の世界は非情なもの。どれほどの死闘を繰り広げても、後世に語り継がれるのは往々にして勝者のみである。
しかしながら、スポーツの世界ではしばしば「記録より記憶に残る選手」という表現が用いられ、記録という絶対的な尺度に対し、記憶という曖昧なものが打ち勝つこともある。
そこで今回は、「負けたこと」がかえって記憶に残ることとなった選手たちを特集しよう。
ヨハン・クライフ(オランダ)
ヨハン・クライフはサッカー史上「最も美しい敗者」と呼べるのかもしれない。
ナチス・ドイツから解放された直後のオランダに生まれ、フランコ政権の弾圧に苦しむバルセロナで英雄となった彼は、勝利以上に芸術的なフットボールに固執した。
その美学が恩師リヌス・ミケルスの“トータル・フットボール”を体現させ世界を席巻するのだが、それが彼から代表でのタイトルを遠ざける結果ともなった。
トータル・フットボールの集大成と考えられた1974年ワールドカップでは、決勝で皇帝フランツ・ベッケンバウアー擁するドイツ代表に完璧に封じ込まれ儚く散っている。