宇佐美や家長に続く逸材・中村仁郎
そして、プラスアルファの要素は、現在リーグで3試合連続の先発を勝ち取っている18歳のMF中村仁郎の独創的なプレーだ。
左利きの中村は下部組織出身で、すでに2019年にはガンバ大阪U23の一員としてJ3リーグにデビュー。翌年にはJ1デビューも果たしているが、この野戦病院状態の中でブレイクの時を迎えている。
家長昭博(川崎フロンターレ)や宇佐美、堂安律(PSV)に続くガンバアカデミーが輩出した逸材である中村は柔らかいボールタッチからキープにも突破にもかかれる独特のリズムのドリブルと予測不可能なパスセンスで魅せる“ガンバユースらしさ”を体現する選手だ。
他の選手が「狭い」と感じるスペースでも窮屈そうにせずに高い技術で難所を抜け、自ら突っ込んでいく度胸のある仕掛けも見せる。アイデアマンでもある中村の存在は、「ポスト遠藤時代」に攻撃のバリエーションを増やす意味でも大きい。
このように、トップチームは片野坂監督や参謀の安田好隆ヘッドコーチの指導により、ポジティヴな方向にシフトしていくだろう。
一方、現在はG大阪自慢のアカデミーの方が危機を迎えている。Jリーグや日本代表、海外クラブでも活躍する数多くの選手を育てて来た上野山信行氏、鴨川幸司氏、梅津博徳氏の3名が同時にクラブを去ったのだ。
表向きの退任理由は挙げられているが、3人同時に退任するのは“何か”があったからだろう。
2021年からアカデミー・ストライカーコーチに就任したOBの大黒将志氏は、「ガンバユースの特徴である“止めて蹴れる上手い選手”のイメージが薄くなってきている」と危惧する。
現在のG大阪のアカデミーは現代サッカーの要素を重視しすぎて、“ガンバらしい”柔らかいボールタッチや閃きのような自由な発想力を大事にする選手が少ない。
大黒氏は「上野山さんたちから指導を受けた自分達がガンバユースらしさを継承して指導していきたい」と言うが、本来は上野山氏たちから大黒氏までの間にバトンを渡すべき指導者はいたはずなのに、それが渡っていないのが気になる。
現在、ライバルであるC大阪にはアカデミーの技術委員長として風間八宏氏が指導に当たっている。
絶対王者・川崎に「止めて、蹴る、外す、運ぶ、受ける」の基礎を植え付けた指導者が「指導者の指導」をしているのだ。今をときめく高校生Jリーガー・北野颯太を筆頭に、C大阪の原石たちが眩い光を放っている。
ただG大阪も大黒氏が直々に指導して来たFW南野遥海が前節・柏戦で北野と同じ高校3年生ながらJ1デビューを果たした。
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隣の芝生は青く見えるかもしれないが、G大阪は自分たちが“蒼い”ことをポジティヴに捉えつつ、クラブとしての原点を見つめ直すべきだろう。大阪ダービーはガンバの南野とセレッソの北野の南北対決にも期待したい。