業界用語“抜く”と“当てる”

移籍ニュースを執筆するにあたって、業界内では“抜く”と“当てる”という言葉が多用される。

例えばある関係者から「●●選手はAというクラブに完全移籍する」といった情報を得たとする。この情報を獲得したことを“抜く”という。

“当てる”はクラブへの事実確認とリリース前に掲載する許可を得ることを指す。この“抜く”と“当てる”は移籍ニュースを書く上で必要不可欠な行動となる。事実に反した内容を書くことは論外であり、クラブの許可なく書いてはならない。仮に事実に反した妄想記事をクラブの許可なく媒体に掲載した場合は、クラブから出入り禁止などの処分を受けることになる。

そのためクラブ関係者と新聞記者との信頼関係は重要になる。だが世界的なスター選手獲得を事前に記者が知った場合、クラブに止められているにも関わらず、強行して掲載する場合もある。この場合はクラブとの信頼関係に大きなヒビが入り、中にはクラブに“当てる”ことすらせずに強行掲載するケースも過去にはあったそうだ。

社会的に注目を集めるニュース記事を「スクープ」と称するが、このスクープ記事は記者にとって勲章のような実績となる。そのため各報道機関の記者たちは血眼になって情報収集に日夜取り組んでいる。筆者も報道機関の記者で移籍報道記事を複数本書いてきた。ただ、報道機関がクラブや選手との信頼関係にヒビを入れてまで原稿を求めることは個人的に疑問しかなかった。