“Vivi e lascia vivere.”
今回は趣向を変えて、「思うままに生きよ」という意味を持つイタリア語の諺からコラムへと入っていくことにしよう。アルベルト・ザッケローニが挑んだコンフェデレーションズカップのブラジル戦は、非常に興味深いものとなった。2012年10月に、ヨーロッパ遠征で対戦した際のブラジルは非常に自由に、その個人能力を最大限に生かして日本を葬り去った。しかし11月にマノ・メネゼスが解任されると共に、ルイス・フェリペ・スコラーリが就任したことでブラジル代表も大きく舵を切った。
ヨーロッパでの指揮経験もあるスコラーリによってヨーロッパ化し、上手く闘う術を得たブラジル代表。そんなブラジル代表は、日本代表に対しても「負ける訳にはいかない」本拠地での開幕戦ということで非常にしっかりと研究していた。スコラーリは試合前にこのように語っている。
「グループリーグでの初戦は最も重要だ。ここで負けると2勝しなければ上がれない状態になってしまうからね。ポルトガル代表時代、ユーロで初戦ギリシャに負けたことで苦境に追い込まれてしまったことは今でも覚えているよ」
このように初戦の重要さをしっかりと理解していたからこそ、彼らは空中戦で身長が高くない長友を狙って「高さのミスマッチ」を作るという選択肢からあっさりと先制。先制後はゆったりとDFラインでボールを回しながらショートカウンターをされる場面を減らし、上手く省エネして追加点を奪っていくような試合運びによって日本を圧倒してしまった。
さて、今回はそんなザッケローニが何を考えていたのか?という推測を個人的に行っていきたいと思う。
1あえて強豪を相手にしながらチームを厳しい状況下に追い込み、個人能力を見極めること
最もありそうな気がするのが、これである。遠藤や本田を途中で交代したというのはザッケローニの喝であると捉えられないこともないし、ザッケローニ曰く「全体が移動疲れでコンディション不良」である状態で、前線に岡崎と本田を残してしまうことは守備面で大きな負担を個々に与えてしまうことになる。実際勝利の確率が低いことを知り、勝ち負けは度外視しながらあえて個々のプレイヤーに負担を与えていった可能性もある。
そのようにコンフェデレーションズカップという場を利用し、個人のレベルを上げていく手助けにしようと考えたとしても不思議はないだろう。また、これは同時に現有戦力の見極めも含んでいるはずだ。実際、この試合で通用していないことを理由にチームを組みなおしていくというのが簡単になるという点もある。
2自らの戦術の優位性をアピールし、選手たちを掌握すること
ブルガリア戦などで、代表選手から戦術に対する懐疑論が出ていたことは何度か報道されている。それがザッケローニにとって直接の脅威となるものでないにしても、決してチームにとって良くない傾向なのは確かだ。それ故にブラジル戦では、あえて完成度の低い4-4-2ブロックでの守備を採用。ブラジル代表に翻弄されてしまった守備に対して、そして選手たちに対して「お前らはまだ守備を何もしらない」という強烈なメッセージを叩きつけたのではないか?という推測である。
イタリア人監督らしくない守備だったのは間違いない事実で、前線が2枚しかいない状態でブラジルのパス回しを阻害することは全く出来ない。これなら1枚後ろに置いておいたほうがいいのでは?という状態となってしまった状態で、高いテクニックを持つブラジル守備陣に翻弄されるようにパスを繋がれていく。そうすると、先制されていたこともあって苛立った香川が何故か高い位置にアタック。結局それでも未だに数的不利であることからあっさりと外されてしまう。
こうなればブラジルからするとラッキーなもので、簡単にオスカルを手薄になってサイドに走らせて簡単にチャンスを作り出していった。ただでさえ長友相手にフィジカルで優位を保つフッキへの守備も軽減されると一気に守備のバランスが悪化。ブラジル得意の2列目のポジションチェンジによって中盤は徹底的に荒らされてしまった。香川への守備での指示や交代によって多少は修正することが出来たはずなのに、それをしなかったという事実からは、ザッケローニが「チームとしての戦術的な守備が無い限り『世界』など遥か遠い場所だ」という厳しいメッセージを与えたという可能性もあるのではないか。
どちらだとしても、ザッケローニが本気でこの試合を取りに行こうと思っていたかというのは怪しいところだ。格下が格上に闘う上で、絶対に必要な「リズムを崩す」術は見えなかったのだから。あまりに早い時間帯での失点によって、考えを変えた可能性もある。しかし筆者は、「本気で勝ちにいかなかったザッケローニは失格だ」などと声を荒げるつもりはない。正直、現段階で本気で手を尽くして勝ちに行ったとしてもブラジルに勝利出来る可能性は0に近い。
イタリア人指揮官はシビアだ。彼らの国民性は、本番にこそ発揮される。いくら調子が悪いように見えても、のらりくらりとやり過ごしながら少しずつチームを作ることによって本番で勝負強さを発揮していく。前哨戦としてホームで闘うブラジルは「勝たなければならなかった」が、日本にとっては本番のW杯までに通る道でしかない。どんな道を辿っても、行き着く結果が良ければ問題はないのだ。
日本代表の選手たちは「全く通用しなかった」と世界との差を実感しているが、「日本をスカウティングしてまで本気で」勝利を狙ったブラジルを「明確な策も持たずに」相手にしたのだから当然である。むしろ、そういう意味では良く3点に抑えたという見方も出来るだろう。岡崎と本田をほとんど守備に参加させない状態で、あの王国ブラジル相手に守備が懸命に闘い続けたことは好材料ともいえる。イタリア、メキシコといった好チームとの闘いが待ち構えるコンフェデレーションズカップで、ザッケローニは「何を試し」、「何を得る」のだろうか。
筆者名:結城 康平
プロフィール:「フットボールの試合を色んな角度から切り取って、様々な形にして組み合わせながら1つの作品にしていくことを目指す。形にこだわらず、わかりやすく、最後まで読んでもらえるような、見てない試合を是非再放送で見たいって思っていただけるような文章が書けるように日々研鑽中」
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