前半25分過ぎに見せたこのドリブルで、恐ろしいことは何か。勝負はボールを受ける前から始まっている。
相手のフリーキックからのカウンターという状況で、相手が戻ってこないうちに前に急ぎたくなる場面にも関わらず、落ち着いて半身で中央の状況を確認。ボールを受ける際に、足元にボールを置けるという判断を下す。
更に、一度スピードを落として守備に来ている選手を確認している。2人がドリブルを防ごうと向かってきてはいるものの、相手はフアン・マタとディマリア。両方とも攻撃的な選手だ。それなら仕掛ける価値はある、という判断を「若干スピードを落としながら」下している点に注目したい。
そしてこのスピードを落としていくという行為は、相手に内側へのパスを意識させる効果も持っている。写真では、ディマリアが中央のパスコースを優先して切ろうとしていることが解るだろう。
そして、ディマリアが飛び込んできたところで「後出し」の加速。緩急を生かして一気に飛び込んで2人を抜き去る。相手の状況、特徴などを見ながらドリブルを仕掛けることで、一対一に強いDF相手に仕掛けるよりも成功率が上がるという訳だ。
この状況判断力、駆け引きの精度は、昨シーズンまでのアザールに備わっていたものではなかった。経験から来る落ち着きも勿論あるのだとは思うが、ジョゼ・モウリーニョの指導の影響だと考えるのが妥当だろう。もともと相手の弱いところを徹底的に突くことに定評があるスペシャル・ワンの戦術に適応していく中で、相手が嫌がる「後出し」のドリブルを手に入れたのだ。