各国サッカーのレベルは年々縮小しているとはいえ、上位の勢力図には変化のない時代が続いている。そんなサッカー界に新たな風を吹き込む強豪が誕生するかもしれない。

南米大陸のスリナムでは現在、国外に住むスリナム系の選手に代表チームへの門戸を開くための2重国籍法案が提出され審議が進んでいる。

スリナムってどんな国?

スリナム共和国は南米北部に位置するいわゆる“ギアナ3国"の1つで、1975年にオランダから独立した人口50万人ほどの小さな国である。地理的には南米大陸に属するがCONMEBOL(南米サッカー連盟)が新たな追加を認めないこと、また、民族的に黒人が多く文化的に近いこともあり、CONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)に所属している。

経済的に貧しく国内リーグはアマチュアで、これまで大きな大会への出場が一度もないスリナム代表の最新のFIFAランクは164位となっている。しかしながらクラレンス・セードルフ、エドガー・ダーヴィッツ、ジミー・フロイト・ハッセルバインクの出身地、また、フランク・ライカールト、ルート・フリットらの両親の祖国で、1990年代のアヤックスが彼らスリナム系を中心として欧州を席巻したことはサッカーファンであればご存知のことであろう。

*パトリック・クライファートは父親がスリナム系

スリナム人が抱く夢

ではなぜ代表チームが弱小に甘んじてきたのか?といえば内情は政治的な話で、スリナム政府は2重国籍を認めていなかったためである。将来有望なスリナム系の選手は貧しくW杯出場の可能性がない母国・祖国よりも、パスポートを離脱してでもオランダ代表を選択してきたのだ。

それでも彼らはスリナムへの深い愛情を隠すことはなかった。元K1王者のアーネスト・ホーストはオランダ人と紹介されながらも、常にスリナム国旗を刺繍したパンツを履いていたことは有名で、オランダでは「スリプロフス」というスリナム系の選手だけで形成されるチームがほぼ毎年慈善試合を行っている。1990年代のオランダ代表における「黒人vs白人」の内紛も、彼らのその並々ならぬ郷土愛と強い個性による部分は決して少なくなかったのである。

そのような経緯もあり、スリナムのサッカー関係者の間ではスリナム系の選手を迎えた代表チームの創設が悲願となっている。

そこで10年以上も前から国籍法の改正を求め、ブラジルW杯出場を目指した計画が進められてきたが事態は思うように運ばず、2014年も終わろうとしている。しかし今年夏、ようやく法案が国会に提出されたことで議論が深まっており、2018年ロシアW杯の予選が開始される来年3月直前の、1-2月中に結論が出ることが期待されている。