「ある夜の8時に、フットボールクラブを作るため、エグリントンの高台に紳士が集まった」

まるで小説の描写のような雰囲気を漂わせるこの記述が、チームの創設を記録したものであるらしい。1867年、初夏のことだ。

その紳士達の寄合いこそ、スコットランドで最初のフットボールクラブ誕生の瞬間であった。

日本では大政奉還が行われた年に、スコットランドではフットボールクラブが産声を上げたのだ。ウイスキーのグラスを傾けながら、彼らはまだ見ぬ夢を語り合ったのだろうか。フットボールという名の夢を。

当然のことかもしれないが、創世記のスコットランド・フットボール界にあって先駆者たるQueen's Park Football Clubは圧倒的なチームだった。スタジアムに駆け付けた古きフットボールファンにとって、Queen's Park Football Clubは革命的なフットボールで欧州を席巻したペップ・グアルディオラのスタイルのように映ったのかもしれない。

「支配的な強さ」とまで称されたQueen's Park Football Clubは、1872年に行われたイングランドとの練習試合において、スターティングメンバー11人全員をスコットランド代表として送り出した。この試合は、スコットランド代表の歴史上初めてにして唯一、特定のクラブから代表のスターティングメンバー全員が選出された試合としても知られている。

興味深いことに、その歴史は脈々とスコットランド代表チームに受け継がれている。代表が現在着用する濃紺のユニフォームは、もともと全盛期のQueen's Park Football Clubのユニフォームカラーを受け継いだものだ。

代表チームが本拠地としているハムデン・パークも、未だに保有しているのはQueen's Park Football Club。4部相当のリーグに所属するクラブが、スコットランド代表に貸し出すスタジアムを持っているのである。

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