この試合を現地で見ていた日本人がいる。チェルシー・サポーターズ・クラブ・オブ・ジャパンの藤永雅彦会長だ。
以前別のコラムでも紹介したが、藤永会長は「ミスター・チェルシー」ことチェルシーTVプレゼンターのニール・バーネット氏と長年の友人で、コレクションの量・質ともに同チャンネルから“アジアNo.1”と評された真のサポーター。
本業の医師として活躍する傍ら、ゾラの魅力をきっかけにチェルシーの虜になった。
そんな藤永会長に、このゴールについて語ってもらった。
藤永 雅彦(チェルシー・サポーターズ・クラブ・オブ・ジャパン会長)
「本当に幸運なことだと思いますが、私はその試合をスタンフォード・ブリッジで観ていました。
自分でもサッカーをプレーするので得点の状況はすぐに理解出来ましたが、ほとんどの観客はどのようなシュートかよく分かっておらず、スタジアムの反応はいつもの歓声があがる程度でした。
ところが、ビッグスクリーンにリプレイが映し出されるやいなや、それまでに私が経験したことがないような大興奮に包まれました。
そんなミラクルゴールの背後にあった感動的な物語を知るのは、チェルシーTVによるインタビュー映像を観た後でした。そして、次のホームゲームのマッチデイプログラムでさらなる詳細が分かり、強く胸を打たれました。
その後もいろいろな機会で紹介されてきましたが、個人的に最も印象に残っているのは、ゾラのチェルシー退団記念パーティーであのリチャード・アッテンバロウー卿(映画『ガンジー』でアカデミー監督賞受賞。チェルシーの有名人サポーターとしては最高ランクに位置される)が、彼についてのスピーチを行ったことでした。ゾラという存在が単なるフットボーラーでなく、まさに“レジェンド”として公認された瞬間だったと実感しましたね。
それにしても試合直後のインタビューは本当に感動的で、振り返るたびに涙腺が緩んでしまいます。私も癌患者さんを数えきれないぐらい見てきましたが、やはり子供の患者さんは特別です。ゾラも自分の娘と同年代のマシュー君が死と向き合って懸命に頑張っている姿を見て、心を揺さぶられたのではないでしょうか。
さらに、このエピソードにはもっと奥の深いものがあると思います。
当時のゾラはたまたまマシュー君のもとを訪れたのではありません。ほとんどの選手がクラブからの要請で慰問活動を行うわけですが、彼は常日頃から自発的に各地の施設を周っていました。
それはゾラ自身が自分の社会的な存在意義を熟知し、最大限に社会のために役立てたいという志を持っていたからだと思います。
そのような背景があった上でマシュー君と出会い、『100回に1回しか出来ない』と自ら語ったあのミラクルゴールを決めたのです。なんだかとても特別な気がしますよね。
現在のサッカー界に果たしてゾラのような志を持った選手が何人いるでしょうか。そういう意味でも、この1点はとても意義深いもののように感じます」