そこで、スパーズの“スピード”である。

このチームの両翼は、エリック・ラメラとクリスティアン・エリクセンがファーストチョイスである。この2人は決してスピードがないわけではないが、ヘスス・ナバスやジェフェルソン・モンテーロのようなスピードスターかと言われればそうではない。

しかし、スパーズのフットボールは今季のリーグで最もダイナミズムに富んだ、エキサイティングな内容である。なぜか。

ご察しの良い読者の方はすでにお気付きだろうが、ここでのキーマンはカイル・ウォーカーとダニー・ローズを指す。

フィジカル的なスプリントスピードもさることながら、スパーズのそれにおいて私がずば抜けていると感じるのは“パススピード”である。攻撃の号令となる1本目のパスをどこに付け、動き出すか。加えて、プレースピードを単に加速させるこのアクションを流動的に行い、彼らが毎週末見せている爆発的な攻撃参加に移るには、阿吽の連携が不可欠である。

私はいまだにリーグ最高のレフトバックはレイトン・ベインズだと確信しているが、短期決戦にはまず守備陣からという意味も込めて、今季鉄壁を誇るスパーズのフルバックコンビは大きな武器になるだろう。そういった意味合いでも、エリック・ダイアーはこの2人の豪快な駆け上がりに対して、適格なバランスを組織にもたらしてくれるはずだ。

そして、スピーディーな攻撃の合図をサイドバックからスタートさせるためには、サイドハーフには足元の技術に優れたプレーヤーが不可欠なことも述べておきたい。

だからこそ、スパーズはトップ下で天武の才を発揮するエリクセンをサイドに据えている(そこでも輝けるのも、また恐ろしいセンスを感じる)のではないか。そして、ロス・バークリーもこの評価に値する選手であることは間違いなく、アダム・ララーナも適正の人材と言って異論はないはずだ。

組織として前に速く厚い(鍛えられたヘンダーソンやデル・アリの十八番のスタイル)アタック、サイドバックから数秒後には敵陣ゴール前にチャンスを作る機動力と閃きこそ、今大会でイングランドがストロングポイントとして打ち出していくコンセプトだと確信している。

一点だけ問題があるとすれば、ウィンター・ブレークのなかった男たちが、このアタッキングなコンセプトを貫き、走り抜けるかどうか、のみである。

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