ポドルスキがもたらす混乱と負担
ここまでは、ポドルスキが提供した「プラス要素」を中心に触れたが、ここからはその裏側に話を移したい。つまり、「マイナス要素」である。前述した三連敗の要因の一つにも繋がる話だ。
まず、ネルシーニョ政権下での、ヴィッセル神戸のチームスタイルを触れておきたいが、彼らのサッカーは組織的な守備が際立つものだった。
FWからDFまで整備された横と縦のラインが連動し、相手の出方を伺いながらも、危難なエリアに入ったボールは確実に奪う。そして、そこからのカウンターまでが十八番だ。
今季も開幕直後まではこの“習慣”は活きていた。
前線にクサビが入ったところで、岩波、渡部が厳しくチェックに行き、藤田、ニウトンのボランチがサンド。場合によっては、その一つ前の段階で、FWがパスコースを限定して、中盤が高い位置でボール奪う、いわゆるショートカウンターが炸裂した場面も見られた。
決定機こそ、絶好調だった大森晃太郎のような個の力に依存するケースが目立ち、迫力不足な感はあったが、それでも開幕戦から四連勝。爽快なサッカーはそこにはなかったが、確実に勝ち点を積み重ねていった。
だが、そこから一転し、その後6試合は1勝1分4敗と急ブレーキ。珍しく競り負ける試合が目立った。
そして、夏の中断以降も復調せず、22節終了時点で9勝2分11敗の11位に。自慢のはずの守備力も崩れ、総失点は「29」という状況にまで陥った。
果たして、何故、彼らがここまで苦戦しているのだろうか。
その理由を検証するには、様々な角度から分析する必要はあるだろう。
だが、少なくとも筆者は、急ブレーキしたことも、その後に復調しなかったことも、「当然の成り行きであった」と見ている。開幕直後の連勝も「結果的には勝ったが…」という印象を持っていたからだ。
それは何故か。理由は簡単だ。まず、「守備力で勝ち点を拾う」という考えには、そもそも限界がある。
何故なら、守備力というものは、ある程度計算できそうなイメージがあるが、実際は案外脆い。(チームの層でカバー出来る部分もあるが)基本的には、センターラインに欠場者が出ると、途端に安定感を失うのが“お決まり”である。
実際、ヴィッセル神戸では、DFリーダーの岩波拓也が数試合を離脱し、ボランチで効いていた藤田直之も故障。さらに、故障者を挙げると、高橋峻希と橋本和の両サイドバックもしかり。開幕戦でエースのレアンドロが大怪我を負ってしまったことは大問題であったが、チームが稼動した直後に後ろの選手が何人も戦線離脱されるほうが、ヴィッセル神戸の場合はダメージが大きい。
そして結果として、堅固なように思われた守備組織は、多くの試合で持ち応えられずに決壊。その穴埋めを攻撃面で委ねるわけにもいかず、見事に下位に沈んだ格好だ。
さらに、ここで追い討ちをかけたのが、ポドルスキの加入であった。
初戦こそは活躍したが、「ポドルスキを潰せばOK」という考えが各チームに浸透したのか、対戦相手はいずれも教科書通りに彼を完封。厳しいチェックでイライラを募らせ、ゴール前から彼を遠ざける作戦はクリーンヒットした。
このタイミングで「ポドルスキを囮にする」という解決法が、ヴィッセル神戸に見つかれば良かったのだが、スターへの遠慮か、元ドイツ代表の威圧感か、はたまたチーム戦術なのか――「頑なにポドルスキにボールを集めようとする意思」が変わることはなかった。
そして、彼の存在は、ストロングポイントであったはずの守備面も弱体化させてしまった。