忘れられない記憶

『スカパー!』のCL中継は「90分以外」の部分も大切にしてくれた。

私が好きだったのは、どの試合もキックオフの15分前から中継を始めてくれたところだった。

CLは海外の強豪を迎えるという意味である種の非日常であり、スタジアムは特別な雰囲気に包まれる。試合前の様子を映してくれたことで現地の盛り上がりや興奮を一緒に味わうことができ、まるでスタジアムにいるかのような感覚に陥った。

また、『スカパー!』は試合後のスタジアムの様子もたっぷり伝えてくれた。なかでも強烈に覚えているのは、2004-05シーズンの準決勝で実現したリヴァプール対チェルシー戦だ。

ルイス・ガルシアによる疑惑のゴールで決勝進出を決めたリヴァプール。チェルシーの猛攻をしのぎタイムアップの笛が鳴ると、アンフィールドは興奮の坩堝に。

このシーズン、リヴァプールはチェルシーと4度戦いながらも一度も勝利できておらず、“五度目の正直”でCL決勝への切符を掴んだのだ。

リヴァプールサポーターはYou'll Never Walk Aloneを歌い、リヴァプール選手たちが歓喜する一方でジョン・テリーは項垂れ、ウィリアム・ギャラスは泣いていた。

そのコントラストはあまりにも対照的であり、CLという大会がトッププレーヤーにとってどれほど重要なタイトルであるかが伝わってきた。

「ユルネバ」がエンディングに近付く中、カメラは少年のように喜ぶジェラードをクローズアップ。

ジェラードはテリーと抱擁する。笑顔のクロード・マケレレと握手する。獲得を打診されていたいわれるジョゼ・モウリーニョとも握手をする。そのカメラワークはまるで映画のようであり、荘厳な雰囲気がそれを引き立たせた。

そして、モウリーニョ自身も接戦を演じたリヴァプール選手と次々に握手し、最後はリヴァプールサポーターに拍手を送りながらピッチを去って行ったのが忘れられない。

私にとってこの年は『スカパー!』を契約し迎えた最初の年であり、ヨーロッパのサッカーに本格的にコミットした初めてのシーズンとなったが、この試合は何も知らなかった私にサッカーの本当の素晴らしさを教えてくれた。この試合に出会っていなかったらここまで深くサッカーに関わることはなかったかもしれない。

これはCL中継に限った話ではないが、『スカパー!』のサッカー中継は“90分以外”の部分も大事にしていた印象を受ける。だからこそ興奮が何倍にも膨らんだり、感動が何倍にも増したのだ。

こうした部分は、やはり制作能力を持った放送事業者ゆえに培ってきたものなのだろう。CL決勝で言えば、試合終了から1時間近く放送を続けることもザラだった。

ちなみに今シーズンの決勝戦も、キックオフ45分前から中継を開始するという気合いの入れぶりだ。

決勝はもちろん現地キエフからの中継である。かなりの経費になるはずだが、決勝という大一番を同局が日本から中継したことはこの15年間で一度もない。