異端の攻撃戦術のカラクリ

そして、その朴の能力をさらに活かす術となったのが、札幌戦の[2-5-4]だ。

デフォルトのシステムは、今季初の[3-5-2]。アンカーに藤田直之、2トップの1角に20歳の本田風智と今季リーグ初先発の2人を抜擢。昨年から注目を浴びながら新体制では出場機会が減っていた18歳のDF中野伸哉も今季2試合目の先発となった。

そして、その抜擢した3選手全員が今季初ゴールを決め、川井監督の采配は大当たりだった。

(作成:筆者)

昨季の鳥栖の[3-5-2]では、攻撃時に3バックの左に入るDFがライン際を攻撃参加し、左WBがインサイドMFやトップ下の位置に横ズレしたポジショニングをとる左肩上がりの可変システムが運用されていた。

それが小屋松や仙頭、樋口や白崎凌兵、中野嘉大といった「10番」を着るような技巧派MF5人が同時に先発起用されて機能する仕組みとなっていた。

対して、この札幌戦はマイボール時にボール保持を確立すると、GKの朴が最終ラインで3バック中央のDF田代雅也と並んで攻撃を組み立てに入った。(上記図を参照)

また、守備時は3バックの左右を務める右の原田亘と左の中野伸哉が両サイドを駆け上がったり、アンカーと並んで中央寄りでボールを受ける「偽サイドバック(以下、SB)」の働きを披露。特に中野伸哉は3点目の起点となるスルーパスを供給し、4点目を自ら挙げた。

(18歳にしてレギュラーを張る中野伸哉)

この攻撃戦術の突破口はサイドにあった。3バック両脇の押し上げによって両サイドのWBはウイング化され、サイド攻撃は同サイドの「WB+インサイドMF+3バックの両脇」の3人が担当。

お互いにポジションを入れ替えながらスペースを作り、バランスを保ちながら巧みにスペースを使った。その両サイドからのクロスに対して、鳥栖はペナルティエリア内に人数を多く割き、札幌の選手たちはマークが追い付かずにパニックになっていた。それも当然だ。「1人多く見える」のだから。

その陣形が[2-5-4]であり、サッカーというスポーツができた19世紀中頃から約60年間、世界中の全てのチームが採用していた“遺産”[2-3-5]のVフォーメーションのようだった。

実は今季の鳥栖はJ1で1試合平均の走行距離が126.8kmと最も多く、2位以下を5km以上も上回っている。

スプリント数もリーグトップを誇る「超ハードワーク集団」で、2014年のJ1前半戦を首位で折り返した頃はハードワークぶり一辺倒だったが、ボールを持てるようになった近年は、「賢さ」が際立つ。

小泉慶と福田晃斗、藤田に加えて、偽SBをこなす原田と中野伸哉などボランチ的能力を持つ選手が多いからだろう。GKながら朴にもボランチの能力がありそうだ。運動量の多さは局面の密集、数的優位を作る回数の多さにある。