九州2クラブに女子サッカー異端の戦術家アリ!

鳥栖に大胆な攻撃戦術を持ち込んだ40歳の青年指揮官・川井健太監督だが、J1での監督経験は今季が初めて。監督やコーチとしての経験は女子サッカー界で多く積んで来たJリーグでは異色のキャリアを持つ指導者だ。

筆者は女子サッカーを取材しているが、すでに2017年の段階で川井監督が率いていた愛媛FCレディースは攻撃時と守備時にフォーメーションを変える可変型システムを高い完成度で披露していた。

しかも、当時なでしこリーグ2部所属ながら、なでしこジャパンに2人が招集されるなど、戦術面と共に育成の手腕にも確かなものがある。当時はまだ横浜にアンジュ・ポステコグルーという黒船が来航していない時期だ。

愛媛ではこの日対戦した札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督がサンフレッチェ広島や浦和レッズなどに植え付けた所謂「ミシャ式」に近い戦術を採用していたのだが、この日はその“本家”に完勝したのを観て、筆者も感慨深く感じた。

男性が女性を指導することは、コミュニケーション能力や人心掌握といったマネジメントスキルがより求められる。

鳥栖はクラブ独自のゲームモデルがあるとはいえ、川井監督のエッセンスが早い段階から見えているのは、女子サッカーの指導者としての経験から体得したものが活きているように感じる。

同じ九州勢ではJ3の鹿児島ユナイテッドが開幕5戦無敗(3勝2分)と好調だが、その鹿児島を今季から率いているのは、なでしこリーグの伊賀フットボールクラブくノ一三重を述べ7年間率いた大嶽直人監督だ。

(伊賀FCを率いていた当時の大嶽直人監督。Jクラブの監督は今季の鹿児島が初。写真:筆者)

積極果敢で胸が熱くなるようなサッカーが全面に出ており、鳥栖同様に芳しくなかった前評判を覆す快進撃を続けている。

川井監督はマンチェスター・シティを指揮するジョゼップ・グアルディオラ監督的な「ポジショショナルプレー」を、大嶽監督はリヴァプールを指揮するユルゲン・クロップ監督型の「ストーミング」を志向。戦術的には対象的だが、女子サッカー界では異端な戦術家だった。

また、ペップとクロップがお互いの要素を採り入れているように、鳥栖はカウンターも打つし、鹿児島も立ち位置の優位性を活かした攻撃を採り入れている。選手たちとのコミュニケーションを絶やさず、戦術の浸透度や選手達の特徴、自信やメンタルも考慮し、微修正とアップデートを繰り返していける指導者だ。

女子サッカーを取材していると、「Jリーグの監督を経験した指導者が来て欲しい」などという声をよく見聞きする。

しかし、実際、元Jリーグ監督たちは女子サッカーでほぼ成功を収められていない。逆に「女子サッカーで成功を収めた指導者がJリーグに来たらどうなるか?」は先例があまりなかったわけだが、川井監督と大嶽監督がポジティヴな風を吹かせてくれている。

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Jクラブの監督選びは成績に直結するデリケートな案件だが、今後は既存のJリーグでの実績だけでなく、女子サッカーの指導経験を評価・検討するのは良い選択となるのではないだろうか?

近い将来、ヴィッセル神戸が“普通”にINAC神戸レオネッサの星川敬監督にオファーを出すような日が来ても良いと思う。

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