「危ない場面で助けてくれる」サボらない選手

とはいえ、スピード対応や強度は若い頃から不足している。それでも歴代の日本代表監督たちが遠藤を使い続け、42歳となった現在もJ1で主力を張る理由はどこにあるのか?

G大阪時代、共に「黄金の中盤」としてプレーしたMF橋本英郎(おこしやす京都AC選手兼コーチ)は遠藤を「危ない場面で助けてくれる選手」と表現する。味方が0.5秒後にボールを奪われそうな場面でサポートに現れ、1メートルのパスを受けて相手のチェックを回避し、その密集地帯を抜け、ピンチをチャンスに変えていくのだ。

特にサイドバック(以下、SB)の選手はこのような遠藤のサポートを幾度も受け、次第に相手のプレスを回避するビルドアップ能力の向上から成長を遂げていった。磐田では3バックの左センターバックを担った伊藤洋輝(シュツットガルト)もその恩知を受け、現在は日本代表にまで成り上がっている。

よく遠藤の走力に着目するうえで90分間でのスプリント数(時速24km以上で1秒以上のダッシュ)が平均3回ほどであることが取り上げられる。本人のマイペースぶりと合わせ、抜くところは抜くことが評価されているが、筆者が思うに遠藤は「サボらない選手」だ。

「ボールホルダーに対して2つ以上のパスコースを作る」とは、サッカーの基礎中の基礎であるトライアングルの概念だが、遠藤はそれを愚直にやり続ける。低い位置でDFがボールを持ち、相手の寄せがそれほど強くなく、誰もが「サポートがなくてもボールは失わない」と思う場面でも、42歳のMFは確実にサポートに現れてボールを前進させていく。その姿を若手は見習って欲しいものだ。

代表ではアルベルト・ザッケローニ監督時代、左SB長友佑都(FC東京)が前線へ駆け上がり、左サイドMFの香川真司(シント=トロイデン)が中央へ絞り、遠藤が長友のカバーに回る“3点移動”に定型化されたビルドアップもあった。

これらの動きやグループ戦術はパターンになっていて、選手たちはその約束事を頑なに遂行していた。しかし、遠藤だけは相手チームの動きを見て、何かの原則に沿って立ち位置を微修正していた。

まるで「5レーン理論」を一人で体現しているように。