20年前から体現し続ける「ひとり5レーン理論」

「5レーン理論」とは、2013年に当代屈指の名将ジョゼップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ監督)がドイツの絶対王者バイエルンの監督に就任した際、トレーニング場のピッチに4本の線を引いた頃に言語化された概念だ。

ピッチを縦に5分割し、それぞれのレーンを【中央】【左右ワイド】【左右インサイド(ハーフスペース】と形容する。そのうえで、「5レーン理論」は、次の3つの条件によって「トライアングルを的確に作るための考え方」と説かれる。

  1. 「1列前の選手が同じレーンに並ぶのは禁止」
  2. 「2列前の選手は同じレーンでなくてはならない」
  3. 「1列前の選手は適切な距離感を保つために隣のレーンに位置することが望ましい」

上記した3つの条件は、主にSB・ウイング(サイドMF)・インサイドMF・守備的MFに集中するタスクだ。現場で取材をしていると、「ボランチとサイドバックは一緒」、「サイドバックとボランチ、サイドMFがポジションをローテーションしながら入れ替われるのが理想」など、多くの指導者たちの言葉をよく聞く。

ザッケロー二時代の日本代表による“3点移動”や、G大阪時代の遠藤が自らはDFラインに落ちて、藤春廣輝や安田理大(松本山雅)ら攻撃色の強い左SBを攻め上がらせ、もう1人の司令塔である二川孝広(ティアモ枚方)にハーフスペースを使わせる手法もこの理論に当てはまる。

遠藤がプロ1年目を過ごした横浜フリューゲルスの監督は、スペイン人のカルレス・レシャックだった。バルセロナの選手だったグアルディオラを指導した人物で、当時のフリューゲルスの練習も「ロンド」(鳥かご)と呼ばれるパス回しが中心だった。その中で遠藤は、「自分のサッカー観は間違っていなかった」と確信を抱いた。

もちろん、当時はこの理論は言語化されていなかった。だからこそ、彼以外にこの概念をピッチで体現している選手はいなかった。しかし、足を止めずにトライアングルを作り続ける遠藤の姿を見ていると、彼は20年前からひとりで「5レーン理論」を体現しているように見える。