代表戦は写真家にとって「最高レベルの舞台」なワケ

緊張感を漂わせながら一瞬で通り過ぎるピクシー
試合開始前、国歌斉唱が行われる

そして試合開始の時がやってきた。

代表戦のスピードに全くピントが合わせられない自分に愕然とする。さらにゴール前の攻防ではヘディングの打点の位置が想像以上に高く、ファインダーに納まらない…。

これが代表戦!いつも撮っているカテゴリーとのレベルの差とはこういうことなのか…!

苦しみながらなんとかピントを合わせたもの。

前半16分、タディッチの1点目が決まる。私が今回陣取っている「ゴール横メインスタンド側」は、本来、メディア各社のトップカメラマンが最高級カメラ機材を担いで陣取る特等席である。

基本的にレッドスターの選手たちはゴールを決めた後、このメインスタンド側に走ってゴールパフォーマンスをするのが暗黙の了解になっている。バッチリ撮影するためには、この特等席に場所を取るのが鉄則だ。

しかし、ゴールを決めたタディッチは、なんとバックスタンド側に走っていってしまった。代表選手たちには暗黙の了解など通用しないらしい。周りのメディア各社トップカメラマンたちが一斉に舌打ちする(笑)。私ももちろん撮れなかった。

タディッチの1点目ゴール後。バックスタンド側へと走っていってしまった

後半はバックスタンド側に移動して撮影。報道陣が多く集まるビッグマッチの場合、メインスタンド側はバズーカー級のレンズが密集して身動きが取りづらいため、私はバックスタンド側で自由に動き回りながら立ったまま撮影することが多い。

この位置で隣り合わせになるカメラマンたちとは、お互いに「同僚」と呼び合って情報交換などしたりもする。セルビア国内で絶対的な権威を誇るスポーツ専門紙「ジュルナル」のトップカメラマンも、いつもバックスタンド側に陣取っている。

メインスタンド側では撮れない写真を撮るのが彼のポリシーなのだ。ここで撮り始めて40年という大ベテランだが、この私を対等なカメラマン仲間とみなして仲良くしてくれている。経歴上、私にはカメラの師と呼べる人はいないのだが、彼と一緒に撮るようになってから、撮影のタイミングや位置取りなど盗み見て学ぶことも多々ある。