美しきヴラホヴィッチに「世界」を感じる

同じくバックスタンド側で撮っていたカメラマン仲間のひとりが「俺、ピクシーを撮ってくる」と言ってメインスタンド側に移動していった。彼はフリーでメディア各社に写真提供しているカメラマンで、なんとピッチサイドでタバコを吸いながら撮るスタイル。

いや、いくら喫煙率が高いセルビアでも、ピッチサイドでたばこを吸いながら撮るカメラマン、さすがに彼以外は見たことがない。ただ、取材範囲はカテゴリー的にも移動距離的にもかなり広く、優秀なカメラマンである(ちなみに私も、今のセルビアでは相当取材範囲が広いカメラマンの一人だと思うが)。

守護神ヴァニャ・ミリンコヴィッチ=サヴィッチ(Vanja Milinković-Savić)。マンチェスター・ユナイテッドに所属していたこともある
GKヴァニャの兄、セルゲイ・ミリンコヴィッチ=サヴィッチ(Sergej Milinković-Savić)

そうだった、私もピクシーを近くで撮らなきゃと、一緒にメインスタンド側へ移動。規制線ギリギリまで近づいて撮影してみた。

名古屋グランパスの監督時代、同じようにピッチサイドに立っていたピクシーの姿は、10年以上経った今も鮮明に記憶に残っている。こうして自分がピクシーと同じピッチレベルに立ち、撮影する日が来るとは。そもそもセルビアでカメラマンをやっている自分、「セルビア」という国も、「カメラマン」という職業も、当時は夢にも思わなかった…。

ピッチサイドに立つピクシー

この時に隣でカメラマン仲間が撮ったピクシーの写真は、翌朝の「タンユグ通信(旧ユーゴスラビア時代に世界を席巻した通信社)」で全世界に配信されていた。

そして53分、ヴラホヴィッチが決めた2点目。これは目の前の出来事だった。夢中でシャッターを切る。

2点目を決めたヴラホヴィッチ。隣で喜ぶのはグルイッチ
眼の前でゴールを祝うヴラホヴィッチ
メインスタンドに向かってガッツポーズをするヴラホヴィッチ

私はサッカー自体をそれほど理解しているわけではないけれど、良い選手は美しく撮れるというのは経験に基づく絶対的な信条で、そういう意味で代表選手は全員素晴らしく美しく撮れる。

その中でもヴラホヴィッチは圧倒的に美しかった。これが世界か…!