こうした積極的な補強を実現できたのも、豊富な資金力があってこそ。だが、志向するスタイルが明確だったことも、補強に際して非常に大きかったはずだ。

強度の高いプレスとロングボールでの打開。フロントがスタイルに合致する特長を持つ選手たちを集めて、指揮官含む現場スタッフがマネジメントしていく――。

単に選手を“乱獲”するのではなく、戦術に合った選手を第一に獲得し、マタのようなオプションも周到に用意しておく。今季の神戸と町田が見せたのは、「タイトル獲得のお手本」と呼ぶべき動きだった。

「強度重視」により、大きな転換期を迎えたJ1

戦術的な観点から見ても、神戸と町田の戴冠は大きな意味を持つ。

さかのぼること2年前。2021シーズンのJ1は、「ポゼッション&ハイプレス」が戦術のトレンドだった。

優勝した川崎フロンターレ、2位の横浜F・マリノス(以下横浜FM)が完成度の高いポゼッションスタイルを披露し、3位の神戸も2シーズン前はポゼッションを志向。7位・サガン鳥栖までの上位陣は、(5位・名古屋グランパスを除いて)基本的にボール保持を重視していた。

しかし、2022シーズンに変化の兆しが見られた。きっかけとなったのは、3位・サンフレッチェ広島と5位・セレッソ大阪の躍進だった。

ミヒャエル・スキッべ監督を招聘した広島、小菊昭雄監督2年目のC大阪がアグレッシブなプレスと縦に速い攻撃で新風を吹かせる。攻守に高い機能性を見せた両クラブの躍進により、「強度」が頻出ワードとなった。

昨季を経て、これまでよりも「強度」が重視された2023シーズンのJ1において、序盤戦をリードしたのが神戸と名古屋だった。

両チームともボール保持にこだわりを見せず、縦に速い攻撃で打開する形を志向。神戸は圧巻のポストプレーで起点となった大迫勇也が、名古屋はマテウス・カストロ(8月にサウジアラビアへ移籍)と永井謙佑、キャスパー・ユンカーという個の力が突出した3トップがそれぞれ攻撃のキーマンだった。

終盤戦まで勢いを持続させた神戸が悲願のリーグ戦初優勝を飾り、過去6シーズンにわたり続いた川崎と横浜FMの2強時代(川崎が優勝4回、横浜FMが優勝2回)は終焉した。

J1の覇権は、「ポゼッション&ハイプレス」の川崎&横浜FMから「ロングボール&ハードプレス」の神戸へ。J2でも神戸と基本コンセプトを同じくする町田が圧倒的な強さで優勝し、J1への切符をつかんだ。