パリ五輪サッカー男子準々決勝で、スペインに敗れて敗退した日本代表。
試合結果以上に注目を集めたのが、日本のFW細谷真大のゴールがVARによって取り消しとなった場面でした。
SNSでも大紛糾したこの場面について理解を深めるため、ルールや背景を改めて解説します。
ビューティフルゴールで同点と思われたが
オリンピックの舞台では3度目の対戦となった日本とスペインの一戦は、前半11分にフェルミン・ロペスの鮮やかなゴールで幕を開けました。
追いつきたい日本は前半40分、藤田譲瑠チマの縦パスを受けた細谷真大が、DFを背負いながら上手く反転し、GKが届かないコースへ流し込みます。
見事な同点ゴールかと思いきや、VARの介入によりオフサイドと判定されゴールは取り消しに。
FWがDFを背負いながら縦パスを受けるプレーがオフサイドとなることは極めて珍しく、VARの確認映像が出るのが遅れたこともファンの不満を倍増させる結果となりました。
会場は大ブーイングに包まれ、SNSでは日本人以外からも判定を疑問視する声が続出し、大炎上となってしまったのです。
VARにより細谷の足が出ていたのを確認
公開されたVARのチェック映像からは、細谷がDFを背負った瞬間、踏ん張った右足のカカトがわずかにオフサイドラインから出ていたことが確認できます。
VARの導入によってオフサイドラインはmm単位で極めて厳格に判定できるようになり、身体の中のプレーできる部位が対象となります。
サッカーでは使えない腕は除外されますが、カカトはプレー可能なので残念ながらオフサイドという訳でした。
国際審判員の家本氏は冷静な議論を呼びかけ
確認映像が出てきても止まらない炎上に対し、元国際審判員の家本政明氏は、Xへの投稿で冷静な議論を呼びかけています。
「1mmでてたとか1mでてたとかは関係なく、オフサイドポジションから戻ってプレーしたことは事実なので、オフサイドのそもそもの精神がーとか、競技の精神がーとかは、この件に関してはまったく関係ありません。事実が全てです。」
「僕の見解への自由な批判は尊重しますが、正しい情報の収集不足や競技規則の理解不足による意見も多いので共有です。(中略)とはいえ、僕も日本人なので皆さんの感情的な意見には同意です。」と述べ、サポーターのモヤモヤした気持ちにも理解を示しました。
海外では厳しすぎるVAR判定に様々な意見も
VARの導入によって後味の悪い誤審が減ったのは事実ですが、今回のような厳しすぎるルールの適用にも不満は少なくありません。
2023年に、プレミアリーグのウルヴァーハンプトン・ワンダラーズが、リーグ年次総会でVARの廃止を提案したのは大きなニュースとなりました。
長すぎて退屈なチェック時間、不明瞭な説明によるファンの不満などが主な理由で、VARがサッカーへの興ざめを招いていると痛烈に批判しています。
また、アーセナルの元監督アーセン・ベンゲル氏は、攻撃側の選手が守備側の選手と少しでも重なっていればオフサイドとしない大胆な新ルールを提案し、これはいくつかの国でテスト運用される予定です。
本来は、ゴール前での待ち伏せ攻撃を防止するはずのルールだったオフサイド。
あまりにも厳格に適用されることが、果たして本来のルールの目的にかなっているのか、再検討されるべき時期なのかも知れません。