システムエンジニアを兼業するプロ選手

クラブには元日本代表でワールドカップを経験したMF稲本潤一、MF今野泰幸を始め、5人の日本人プロ契約選手が在籍している。クラブ規模を考えれば元日本代表選手を雇うことは財政的に厳しいが、斬新なアイディアで強力な選手たちを獲得してきた。そして仕事を兼業する必要がないプロ選手の中には、システムエンジニアを務めながら活躍する選手も在籍している。

――南葛SCには、選手社員の他にプロ契約選手もいます。

現在では稲本、今野、関口訓充、下平匠、大前元紀の日本人5選手と、ブラジル人2選手の7人がプロ契約です。地域リーグのクラブが、元日本代表やJリーグのトップレベルでプレーしてきた選手を獲得するのは、やはり簡単なことではありません。南葛SCが彼らのような選手たちを迎え入れられた背景には、2020年から導入している個別パートナー制度があります。選手一人ひとりが個別に企業や個人と契約を結び、パートナー料の対価として、会社名や個人名のロゴを練習で着用するトレーニングウエアに掲出するという取り組みです。当然、プロ契約選手たちにもトレーニングウエアのパートナー枠を提供していますから、彼らにとってはプロ選手としての給料とともに、個別のパートナー料も収入源の一つになっているのです。

仙台から加入した関口

――なるほど、だからこれだけ大型補強ができると。

例えば関口は、J1リーグのベガルタ仙台から南葛SCに加入しました。驚いたのは、立派な営業力を備えていたこと。彼は帝京高校卒業後、長年にわたりJリーグの第一線でプレーしてきました。つまり、ずっとサッカーばかりやってきたわけです。営業活動はしたことがないはずなのに、彼のトレーニングウエアは前面も背面も個別パートナーのロゴで埋め尽くされています。関口の営業力は本当に見事だと感心しましたね。

――プロ契約選手は、しっかりと競技面以外でもクラブに貢献されていますね。

その中で、下平だけは仕事をしています。彼はシステムエンジニアなんです。南葛SCのホームゲームを告知するランディングページも、彼が制作してくれています。

システムエンジニアも兼業する下平(写真Getty Images)

――システムエンジニアですか…!

下平が南葛SCに加入したのは、3年前の春になります。ジェフ千葉退団後、当初は選手として加入する前提ではなく、本人が「体を動かしたい」という理由で南葛SCの練習に参加しました。下平とは彼がガンバ大阪に在籍していたころからつながりがあり、南葛SCの練習に参加した際、「実は現役を引退してトラックの運転手になろうと思っています」と言われました。サッカー選手をやめるのは、身体能力の衰えなどが原因の一つであるわけですが、トラックの運転手だって肉体労働。だから僕は、「サッカーをやめるのはいいけれど、次の職業としてトラックの運転手を選ぶのはちょっと違うのでは?」と返しました。それを聞いた下平の心は少し揺らいでいましたが、運送会社から悪くない条件を提示されていたそうです。

それでも僕が、「10年後にはトラックも自動運転になり、運転手という職業は規模が縮小している可能性もあるね」と伝えると、「なるほど。では、どういう職業がいいですかね?」と。そこで知り合いのシステムエンジニアの会社を紹介し、採用が決まりました。今では一人前のシステムエンジニアとして仕事をこなしつつ、日本プロサッカー選手会を通じて、現役Jリーガーたちにエンジニアに関するレクチャーも行っていると聞いています。