試合後にWordを立ち上げようと思ったが、結局その日は丸々何も手に付かなかった。理由については言うまでも無いだろう。

戦前に香川がハットトリック、サー・アレックス・ファーガソンが選手起用に関して色々と口を滑らせていた事が、逆にどのような布陣で挑むのか分からなくさせていた。

ファーストレグで中盤の潰し屋となっていたジョーンズは怪我で使えない。蓋を開けてみればシャビ・アロンソ封じのフォーメーション、ノーウィッチ戦の得点者は揃ってベンチに座っていた。折り返し地点で1-1というスコア、アウェーゴールを得たものの、良い思い出ばかりの元背番号7を中心とする攻撃陣相手に「0」で抑えられる保証はない。無論0-0ならユナイテッドの勝ち。マドリーは0の時間が長引けば長引くほど無理をせざるを得ない。1-1ならば延長だ、そしてここは夢の劇場。このような条件から、サー・アレックスは後出しジャンケンを選んだ。

狙いとしては失点を避けつつ、カウンターで牽制し前半を終えたい。失点しても一点までなら後半頭からルーニーを投入する。追いついても勝ち越せなければ延長だ。となれば、ルーニーがフレッシュである方が分はいい。大方このようなものだったのだろう。元々後半勝負だったのだ。

ライアン・ギグスの1,000試合目が幕を開ける。

トップ下に入ったウェルベックは、ファーストレグ同様に、アロンソに張り付いた。ボールはマドリーが多く持っていたが、アロンソが思うように受けられないマドリーの攻撃はリズムにあまり変化がなく、アロンソを経由できずに後ろから前線に入るボールはいささか距離があるため、細かいズレが生じていた。ユナイテッドはボールこそ持てないものの、ウェルベックとギグスを中心としたカウンターは非常に効果的で、ボールポゼッションと試合の流れが一致しないことを改めて見せてくれた。ファーストレグで非常に効果的だったが、ターンオーバーを敷いたとはいえ、エル・クラシコ連戦と延長もあることもあってマドリーは前から追ってくることはなかった。思うように流れが掴めないマドリーは、30分あたりからロナウドが中に入り、ユナイテッドのセンターバックとのスピードのミスマッチをイグアインと共に突こうとしたが、ゴールを割るには至らない。

狙い通り0-0で前半を終えたユナイテッド、思った以上に上手く行っていたのは見ていれば明白だった。

こうなれば点が動くまではユナイテッドは動きにくい。と考えていたら後半開始早々にラモスのオウンゴールでユナイテッドが先制し、試合は動くこととなった。もちろん試合前のシミュレーションでは守りきれるとは予想していない。が、無理をして動く必要はさらになくなった。後は凌いで締めにルーニーをどこで投入するか・・・そんなことを考えているうちにナニとアルベロアが接触をして倒れている。うずくまるナニが立ち上がったと思ったら何故か主審は赤い紙を空にかざした。

激昂する指揮官、さて、どうする。交代するのかしないのか、マークをどうするのか。ウェルベックがうまくアロンソを抑えてきた以上、そこは変えたくない。ここが勝負の分かれ目だった。間髪入れずにモウリーニョはモドリッチを投入し、数的優位を利用して前線へのパスの供給口を増やした。結果、交代もなくウェルベックをアロンソのマンマークから外したユナイテッドはブロックで守ろうとするも、混乱するベンチとパスの出し手が増えて勢いを得たマドリー攻撃陣に翻弄され、前半まで見せていた守備は観る影もなく後手を踏んでいった。モドリッチの見事なミドルとサイドからのクロスをクリスティアーノに押し込まれ、一気に二点が必要な状況へと追い込まれた。ナニの退場から15分以上過ぎてやっとルーニーがピッチに入った。「タラレバ」だが、退場直後にすぐにタスクを与えられて入っていれば、と思わざるを得ない状況になっていた。10人になろうとも一方的だったわけではないが、マドリーのゴールマウスにはディエゴ・ロペスという名の鍵がかかっていた。

またしても対マドリー戦は夢の劇場とはならなかった。正確には前回の対戦では元祖ロナウド、フェノメーノ劇場、今回は赤いユニフォームを纏った人間からは主審劇場と思う他ないものとなってしまった。

ターニングポイントとなったナニの退場に関しては、色々なところで議論になっているが、やはり映像とピッチと審判から観るのでは全く違うことがハッキリとした。競技規則に関する解釈、英語と日本語の違い、レフリングの限界、ビデオ判定、など思うことは数えきれない。しかし、ピッチにいたもの達の中で、審判以外の競技者は誰も赤い紙が出るとは思っていなかった、と試合後のコメントから見て取れた。身も心も赤いクラブに魅せられた私の目には、あれが故意には全く見えないし、レッドカードに値するようなファウルとも見えない。もちろん故意であろうがなかろうが危険なプレーにはそれ相応の対応がなされるべきだが、行き過ぎたプレーのようには感じなかった。全ての者にとって事故としか言い様がない。

これもフットボールと言えばそれまでだが、戦う以上負けることもある。負けることをよしとするわけではないが、全力を尽くして負けたのならそれは受け入れるしかない。しかし望みは叶うことなく、11人対11人で90分を過ごすことは許可されなかった。

試合後、怒りに満ちたサー・アレックスと威勢のないモウリーニョ、クリスティアーノの哀しい顔が私の心を全て物語っていた。


筆者名:db7
プロフィール:親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
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