フランク・ライカールトやロナルド・クーマンを異なった数人の師からフットボール観を受け継いで昇華させた「ハイブリッド種」とすれば、ペップ・グアルディオラはより「サラブレッド」だ。
現在、世界でも間違いなく5本の指に入る孤高の戦術研究家は、ボビー・ロブソンとヨハン・クライフ、創造性と攻撃を重視する指揮官の下でプレーし、その攻撃的なフットボールに関する理解を磨き上げた。
師として考えて良さそうなのは、本人が影響を受けたと公言しているマヌエル・リージョだろう。
謎の多いこの戦術研究家は、若い頃はフットサルをプレーしていたらしい。フットサルの細かな戦術をフットボール界に持ち込みながら、若くして指導の現場へと進んでいった奇才を、ペップ・グアルディオラは尊敬し、多くの事を学び取った。結果を重視する指揮官ではなく、彼の様な研究家と共にキャリアの晩年を過ごしたことは、ペップ・グアルディオラの指揮官としての特異性を高めたに違いない。
意外に思われるかもしれないが、ラファエル・ベニテスもマヌエル・リージョからの影響を受けている。そういった意味では、ペップの兄弟弟子だ。
現在レアル・マドリーを指揮するスペイン人指揮官はレアル・マドリーのユースチームで指導者としてのキャリアを開始。スペイン代表などで指揮官を務めた名伯楽、デル・ボスケの愛弟子となる。得意とするカウンター戦術は師の影響を感じさせないものの、トーナメントでは相手に合わせて戦術を使い分ける引き出しの多さは、師から受け継いだ特徴なのかもしれない。
バルセロナで三冠を成し遂げたルイス・エンリケは、フランク・ライカールトやボビー・ロブソン、ファン・ハールの下でプレー経験がある。
彼がペップ・グアルディオラのフットボールからの脱却を目指す中で前線の3トップにある程度の自由を与え、現実主義的にバルセロナというチームの力を引き出したのも、経歴を見れば納得が出来る部分があるのかもしれない。
さて、今回は実験的に「師弟関係」から指揮官の特質を読み解くという試みを行ってみた。
しかし、書ききれた部分はあくまで一部に過ぎない。これからもライアン・ギグス、ティエリ・アンリ、ジネディーヌ・ジダンなど、「名指揮官」になるべく厳しい修行を続けている名選手達が「指揮官の道」へと踏み込むだろう。そういった時、こういったアプローチが指揮官の特徴を探る上で大きなヒントになるのかもしれない。