二人の弱点-「インポシブル」と「アンバランス」

田嶋への別の懸念は、仮に私自身が投票権を持っていたら?という反実仮想への答えにも関わってきます。これを明らかにしない「解説文」では、読者の皆さんに対する責任を果たせないとも考えるからです。

「経歴」で見た通り、田嶋はJFAの代表者として多くの組織に関わってきました。主な物だけでも、FIFA理事とEAFF副会長、それにJOC常務理事があります。ここにJFAでも会長となったら、果たして一人でこなせるのかという危惧が浮かんできます。実際、田嶋はこの選挙期間中にもカタールに戻り、リオ五輪を決めた後の歓喜の記念写真の左端に映っています。

この懸念は田嶋自身も承知しているようで、プレゼン資料の最後に「JFA最優先!」と強調していますが、その通りに行くかは不透明です。FIFA理事だけでも相当の激務です。本人が強調しても、グラスルーツまで含む日本サッカーの全てを把握するのは、かなり難しいのではないかという印象を持ちます。

もう一つ、どうしても「Jリーグ秋春制」では2019年導入という田嶋の提案があまりに楽観的に見えます。

10月と11月に国際Aマッチデーが入り、春秋制の現行日程ではJリーグ終盤の盛り上がりが細切れになるという指摘には、説得力があります。確かに、2015年のJ1は2ndステージの14節以降がほぼ2週間に1度の試合になり、さらにACLの関係で4チームは10月24日にホーム最終戦という「早すぎる幕引き」になっていました。

ただ、たとえ現在の日程を調整し、厳冬期の1-2月開催を回避する「夏春制」を採用しても、スタジアム使用日程確保の問題は解決しません。

大半のJクラブはホームタウン自治体が所有するスタジアムを借用し、さらにその多くは陸上競技やラグビー、さらに各種の地域イベントと共用しています。そして、週末開催の曜日や夏のデーゲーム回数なども変わる年度途中での昇降格を導入できるほど、Jリーグの会場要件は軽くありません。

ホームタウンエリア内に複数の主催試合可能スタジアムを持つクラブは、仮に2019年後半に新国立競技場が開場したとしても、まだまだ少数派です。日程の不具合が「望ましくない」とすればスタジアムの確保は「不可能(インポシブル)」という明確な難易度の差があります。

「夏春制」を可能にする条件は、夏休み明けを学年の始めとする学校制度の改革と、国や自治体の予算を10月から翌年9月までにする会計年度の改革が不可欠でしょう。欧米諸国の学校は9月に新学年が始まるのが常ですし、会計年度の10月スタートはアメリカ合衆国が採用しています(西欧諸国は1月開始)。

しかし、それは国家システムや日本人の感性そのものの変更が必要となり、いくらJFAでも手に余る課題です。

一方、原にも大きな不安があります。プレゼンの内容バランスが悪いのです。

「地方の声を聞く」「グラスルーツにも光を当てる」と強調した主張の中、シンポジウムでも特に弱点だと強調していたU-19世代の強化では「トップリーグを土台」という方向性を打ち出し、小学生世代の第4種では「地域が自主性をもって、地域の特性に合わせたリーグ戦、トレセンを工夫する」としていますが、その間の高校(第2種)・中学(第3種)では明確な方針がありません。ほぼ何も書いてないに等しい女子の強化には、興味自体がないのかとすら感じてしまいます。

また、世界のサッカーやアジア諸国との関係をどう作っていくかという視点も乏しいです。原の「海外ネットワーク」は個人的人脈を利用した人事やマッチメークの交渉にとどまっていて、FIFAやAFCの会議でどこまでJFAの主張を反映させられるかは未知数です。どうしても「内向き」で「得意分野だけを強調した」原のビジョンは、日本サッカーの全体像を描くには足りないという印象が拭えません。

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