破壊力抜群の攻撃陣だが…
続いてその攻撃面に焦点を当てたい。
ベルギーは上述のように「豪華なタレント陣を可能な限り配置した」システムのチームであるが故に、「再現性のあるグループ戦術で相手守備陣を攻略するというケース」がほとんどない。今大会で言えば、誰が出てもポジションが変わろうとも同じような攻撃を見せる、スウェーデン、アイスランド、オーストラリアなどとは真逆に位置するチームコンセプトだ。
ここまでの彼らの戦い方を見るに「ビルドアップ時に、3バックの両サイドが開いてウィングバックは高い位置を取る」、「シャドーの選手が大外に開いた時には、ウィングバックはハーフスペースのポジションを取り、トライアングルを作る」という決めごとは垣間見れるが、いずれもシンプルな戦術であり、現代サッカーにおいては基礎中の基礎である。
肝心の「崩し」の場面については、個々の能力が爆発した時、もしくは、選手間が即興で同じ絵を描けた時にのみ成功するチームと評しても間違いではないだろう。
しかし、それでも個々のタレント力が傑出しているため、たとえ試合の流れが悪い時でも「どうにかしてしまう」ということは念頭に置く必要がある。
その「どうにかしてしまう」という筆頭格が、「3-4-2-1」の「2」で起用されるエデン・アザール。そして、「3-4-2-1」の「4」の中央に位置するケヴィン・デ・ブライネの二人である。
ちなみに、ロメル・ルカクの存在も極めて重要だが、彼はあくまでもフィニッシャーとして脅威を与え得られる選手。アザールやデ・ブライネのように「組み立て」、「崩し」、「仕上げ」の三役で活躍できるわけではなく、チームへの影響度に限定すれば、「彼らよりも少し落ちる」と筆者は見ている。
話を戻してアザールについてだが、アザールはニュートラルの状態から瞬間的にトップギアに上げる「爆速ドリブル」が最大の長所で、トップスピード時でも足からボールが離れることはほとんどない。そのため、彼が「自分の形」に入ってしまうと、多くの守備者は無抵抗状態となり、グループリーグで彼と対峙したパナマやチュニジアも「ファールでしか止められない」という悪夢のような状態に何度も陥っていた。
さらに、このドリブルはゴールに向かっての最短距離で仕掛ける点、引く位置からの長距離ドリブルも得意としている点も特徴的だ。日本からみると、ディフェンシブサードにおいても警戒を緩めてはならないポイントである。
セットプレーでの高さ勝負では日本は不利になるため、無駄なファールは行いたくないところだが、「アザールのドリブルはミドルサードのところでも最悪ファールで潰す」という考えは皆が持つ必要はあるだろう。
次にデ・ブライネだが、彼の主な役割は「リズムチェンジャ―」である。
本来は一列前のポジションでプレーする選手であるが、彼がセントラルミッドフィルダーで起用されることにより、ベルギーは攻撃のスイッチを簡単に入れられるようになり、オールレンジでの攻撃が可能となった。
自陣の低い位置からの長短のパスを織り交ぜたゲームメイクはお手の物で、世界最高レベルのキックの質と視野で予期せぬタイミングからキラーパスは彼の真骨頂。さらに恐ろしいのは、シューターとしての才も非凡でシュートレンジもかなり広い。ここまではまだノーゴールであるが、初得点が日本戦になる可能性は十分ある。
つまり、彼もアザールと同様に「組み立て」、「崩し」、「仕上げ」の三役をこなせる選手というわけである。日本は「彼らに自由を与えない」対策が不可避であり、特にアザールとデ・ブライネのラインも可能な限り分断するべきだ。