再現性のない魅力

――Jリーグは企業チームがプロ化しておよそ30年。それぞれの歴史があってもう簡単には変えられないですよね。ないところからできるという意味では、下のクラブのほうがいろんなことができるし可能性があるのでは。

中島:確かにそうかもしれませんね。文化とは時間をかけて自ずと形成されるものだと思います。その30年の歴史・文化は少しずつ方向性を変えることはできるかもしれないですけど、突然なかったことにはできないですから。

宮崎:エデュケーション(教育)ってすごい時間がかかりますよね。5年、10年のスパンで考えないと。

中島:なかなか難しいですよね。人の心が変わらないとできないことなので。

岡田さんが今治を選んだ理由の一つが、ご自身がこの地に長い間、関係性があったことは間違いありません。でも同時に、今あるものをゼロに戻してスタートするのではなく、ほぼゼロからスタートしたほうがいいという考えを持っていたことも事実だと思います。

それはもしかしたら岡田さんの直感だったかもしれないのですが、その選択を存分にみんなが活かそうとしていると思います。それは私たち会社のメンバーも選手も、もちろんファンもそうだと思います。

ほぼ何もなかったところ…大西SCとして約40年前に創設され、随分以前から応援してくれるファンもいるので、何もなかったわけではないですが、岡田さんが来てみんなで一緒にリスタートするという楽しみは、唯一無二で再現性のないものかと。

――そこはすごい「サカつく」的ですよね。

宮崎:うんうん。

中島:今の世の中って、再現性を求めすぎだと思うことがあります。とあるところで成功したモデルを「横展開」という言葉を使ったり、実証実験で成功したモデルを広げたり、何かこうやる・攻略法があるという考え方に基づくことって多いと思いますよ。

でも結局のところ、当たり前ですけど地球上で人間が生きている限り同じことは起こり得ない。そこにドラマを持っているかどうかってすごく大事だと思う。

岡田さんがもう一回生まれてくることも、現在の同じメンバーが再び集まることも残念ながらなくて、今頑張っている選手がまた集まることもない。

町だって、ひょっとしたらお世話になっている会社が潰れるかもしれないし、自然災害に襲われるかもしれない。いろんなことがあるなかで、再現性のないものに私たちは乗っかっている。その船旅を一緒に楽しめたらなと思います。