偶然を見逃さずに再現する指導力
G大阪のパスサッカーは2004年の途中に始まった。キッカケはJリーグ通算86試合出場61得点を挙げたFWマグロンが怪我で戦列を離れたことだった。
192cmの長身FWがいなくなって攻撃パターンの変更に迫られ、161cmの「小さな魔法使い」フェルナンジーニョが代役に入ることで、足下で繋ぐパスワークを重視するようになった。つまり、偶然だったのだ。
サッカーは偶然から始まることが多い。指導者は毎日練習場で汗を流し、才能を発揮する選手達の姿を見ている。一瞬の輝きかもしれないが、その才能を持っているからこそ彼等はプロ選手として存在している。
練習では最高のプレーを披露できるのに試合ではできない選手もいるだろうし、戦術自体もそれはあるだろう。監督の仕事とは、こうした偶然を見逃さないことだ。そして、その偶然を再現できる術を持っているかどうかが優秀な監督かどうかの違いだ。西野監督にはそれがあった。
よくG大阪が狭いスペースでショートパスを交換するプレーに、「ガンバらしい」と表現する実況や解説、ファン・サポーターがいる。これは西野監督時代のサッカーが基盤となっているだけに、ガンバのスタイルはやはりこちらにあるのだろう。
ここ数年のG大阪は攻撃サッカーの復権を目指す姿勢を見せながら、シーズン途中で現実策に切り替えるような過渡期を迎えている。一方、2019年7月からタイ代表を率いていた西野監督もカタールW杯のアジア最終予選進出に失敗して解任となり、現在はフリーの身となっている。
ガンバの問題点の1つに下部組織出身選手の海外流出がある。
年代別代表のエース格である堂安律(PSV)らが海外移籍するのは理解できるが、食野亮太郎(GDエストリル・プライア)や川﨑修平(ポルティモエンセ)など主力にもなっていない若手選手が流出し続けているのだ。見方を変えれば、海外クラブの方が才能を評価してくれているとも言える。
G大阪や日本代表では若手抜擢のイメージが薄い西野監督だが、もともとはU20やアトランタ五輪の監督を務めた育成年代出身の指導者だ。G大阪でも超逸材だった宇佐美や家長昭博(現川崎フロンターレ)の抜擢はともかく、橋本や大黒将志(現G大阪アカデミーストライカーコーチ)、安田理大(現ジェフ千葉)らは西野監督の指導によって日本代表まで駆け上がった。
現在トップチームに在籍しているFW塚元大、MF奥野耕平はベストポジションが定まらず、愛媛FCへレンタル移籍中のFW唐山翔自も伸び悩んでいる。しかし、来季からトップ昇格が内定している逸材アタッカーの中村仁郎も含め、キッカケ次第で橋本や大黒、安田のように大化けしそうな若手が揃う。
G大阪の攻撃サッカーの復権、若手選手の才能発掘と過度な流出防止。選手達が日々見せる一瞬の才能を見逃さず、偶然を必然に変えられる手腕が現在のG大阪に求められている。