上門、井上、一森…「個人昇格」していった選手の共通項
――J1とは違う“J2の楽しみ方”というのも教えていただきたいです。
J2にはまだまだ無名でも色んな才能を持った選手がたくさんいて、J1へ個人昇格していく選手も年々多くなっています。
だから、ファン心理として自分でその原石となる選手を見つけて、推していた選手がJ1や日本代表、海外クラブへと羽搏いていく。育成ゲームをリアルな世界で体験できるのがJ2を観る楽しみだと思います。
『あの選手、J2の時から知ってるよ』とか言えると楽しいじゃないですか!
その個人昇格した選手に対して、『彼はJ2が育てた』と、なぜか全然違うチームを応援しているサポーターさんまで自慢気に話す感じが良いんですよ(笑)。
――ファジから個人昇格した選手も多いです。加戸さんは去年のGWの頃から加入1年目だったCB井上黎生人選手に『絶対にJ1でやっていける選手』と推されていましたね。
彼は昨年J3のガイナーレ鳥取から加入した時から他の選手と雰囲気が違っていたんです。
『スピードも高さもないのがコンプレックスだったんですけど、だからこそ、相手の動きを予測してポジショニングをとったり、先読みしてボールを奪えるように自分を磨いて来た』と話されていました。
実際にシーズンが始まってからはその通りに相手の攻撃を最後にブロックするのがいつも井上選手でしたから。
ファジでは1シーズンのみの在籍だったんですけど、CBながらフルタイム出場も達成して、今年からJ1の京都サンガF.C.でプレーしています。
京都では最初は出番が与えられなかった中、本職ではなくアンカー(守備的MF)で起用され始めてビックリしました。アンカーは予測や判断力が問われるポジションなので、今お話しした時のことを思い返してみたら、納得の抜擢だと思いました。
彼はとにかく成長意欲の塊で、自ら監督や周囲の選手に相談を持ち掛けて、どんどん新しいことを吸収して成長していく選手なんです。
また、彼にはスペイン人の祖母ちゃんがいるのもあってスペイン留学の経験もあるので、『いつかはスペインでプレーしたい』ともお話されていました。いつか実現するんじゃないかなって思います。
――上門選手は昨年のJ2で13得点も凄いですけど、シュートの本数が日本人で断トツのトップである101本という数字が際立っていました。(日本人2位は68本の中山仁斗[水戸ホーリーホック→ベガルタ仙台])
上門選手の持ち味は何と言ってもミドルシュートを始めとするキックのパワーや精度です。
でも、ファジでは得点数が伸びずに悩んでいたところ、有馬監督に『それだけではやっていけないよ』と諭されて、相手のDFライン背後への抜け出しを習得するなど得点のバリエーションを増やす努力を重ねていたんです。
今年からC大阪に移籍しましたけど、第4節の清水エスパルス戦で決めたJ1初得点がまさにその背後への抜け出しからのゴールだったので、なぜか自分のことのように嬉しかったです。
私は上門選手の無回転で落ちるドライブシュートが好きなので蹴り方を教えてもらったことがあったんです。
『親指の爪先に力を入れてボールの下側を振り抜く』って言っていて、でも、『この蹴り方だと足首を怪我するから真似しないように。この蹴り方は足首を柔らかくするところから始めてください』って注意されましたね。
実際、彼の足首はグニャグニャに曲がるくらい凄く柔らかいんですよ。
――そんな上門選手は有馬監督が退任される際にすごく泣いていたと伺いました。
2人には今お話したような色んな積み重ねがあったんだと思います。去年のシーズンが終わって最後の取材の際、私は上門選手にインタビューしていたんですけど、有馬監督が他のメディアの取材を受けられていたんですね。
私の取材が先に終わったので上門選手と一緒に有馬監督の最後の取材模様を見ていて、『有馬さんのこと大好きだったんで・・寂しい』って言っていて。もし有馬監督が続投だったら残留していたかもしれないって言えるくらい特別な師弟関係だったと思います。
――個人昇格した選手では、ガンバ大阪のGK一森純選手が遂にJ1デビューしましたね!
東口順昭選手の牙城が高くてなかなか試合に出れず、2年目に怪我で長期離脱してからの今年の第6節・名古屋グランパス戦でのJ1初出場。勝利した試合終了直後のあの涙、思わずもらい泣きしてしまいました。
その後も続けて先発出場して第11節の札幌戦ではPKセーブ。その試合から3試合連続完封。めちゃくちゃ嬉しかったですよ!
ファジにいた時からビッグセーブ連発で「神森」って言われていましたし、足下も巧い選手なので楽しみです。彼はレノファ山口でJFL時代からプレーしていて、仕事とサッカーを両立しながら頑張ってきた選手なんです。
そういう苦労も知っているからこそ、支えてくれている周囲の人達への感謝を忘れない選手なので、応援したくなるんですよね。(その後、残念ながら一森選手の負傷による再離脱が発表)
今挙げた3選手はみんなJFLやJ3でプレーしていた選手たちです。個人昇格って言うと、『俺が俺が』と自己主張が強いイメージがあると思うんですけど、実は全くそうではなくて、むしろ謙虚なところが共通しているんです。