「一緒にプレーできるかもしれない」
大学時代の先輩・國廣周平からだった。國廣は戸田氏が2022シーズンにテクニカルダイレクター兼コーチとして指導していたSHIBUYA CITY FCでプレーしており、彼自身の相模原加入も内定していた。
「どういう結果になろうとも、延岡では3年目を最後にしようと決めていました。引退するか、プロを目指すのではなく趣味としてプレーするための区切りにしようと考えていたんです。あの地域CLはプロ入りへの最後のチャンスでした」
2022年のクリスマスイブ、吉武の相模原加入が正式に発表された。J1から数えて5部相当の地域リーグからJ3へと2段階のステップアップとなったが、対戦相手のレベルやカテゴリーへの適応、新たなチームメイトとの連携に苦しむことはなかった。
戸田監督の信頼を獲得した吉武はシーズン開幕後、全試合に先発出場。第2節の福島戦では冒頭のようなゴラッソを決めて勝利に貢献。戸田監督は「彼には『ありがとう』と言いましたが、彼はもっともっとプレーできる選手です」と、自身が発掘した秘蔵っ子にさらなる期待を込めていた。
ボランチ転向、成功の裏に姉の存在あり
伊賀FCくノ一時代の吉武愛美さん(緑25番、2017年5月) 写真提供:伊賀FCくノ一三重
吉武はこれまでの所属チームで常に背番号「10」を背負い、トップ下や2列目のアタッカーとして名を馳せて来たが、「ボールを回しながらも常に相手の背後を狙う戸田監督のサッカー」では、「キープして時間(タメ)を作れる」ことを理由にボランチに転向。元日本代表ボランチの手取り足取りの指導によって攻守の要として活躍しているが、このコンバート成功の裏には姉の存在もあるようだ。
3歳年上の姉・愛美さんは吉備国際大学時代、1回生で主力として全日本女子サッカー選手権大会(通称インカレ)を制覇。同大学は当時の女子サッカートップリーグ「なでしこリーグ1部」 にも所属しており、愛美さんは2014年のオールスター戦に出場する人気選手だった。
ユニバーシアード代表にも選出され、2015年大会の銅メダル獲得に貢献。ノールックでサイドチェンジを繰り出すなど、なでしこジャパンに招集されても不思議ではない実力派ボランチだった。
「実は最近よくお姉ちゃんと連絡をとるようになりました。試合の映像を観てもらって、『今日のプレー良かったよ!』とか、『自陣で股抜きとかしちゃうんだね(笑)』とか。『もっと〇〇した方が良いんじゃない?』とアドバイスをしてくるのではなく、共感してくれるんです。今はそれが楽しい時間になっています。ボランチ経験がなくてもスムーズにプレーできているのは、お姉ちゃんの影響もあると思います。プレーやサッカー観が似ているのかもしれませんね」