類まれなプレースタイルの進化

保田は6月にU-19日本代表として若手の登竜門となる国際大会『モーリスレベロトーナメント』に参戦。初戦のU-21イタリア代表戦(3-4で敗戦)では主将として90分間プレーし、パリ五輪に出場するU-23ウクライナ代表戦(1-2で敗戦)でもフル出場を果たした。

年上で格上と言える2カ国には敗れたものの、保田は「帰って来てからずっと調子が良い」と好調をキープ。川崎撃破のジャイアントキリングにもつながったのだが、フランスの地でどんな手応えを得たのだろうか?

「海外のサッカーは日本よりもオープンな試合展開になりがちです。球際もガッツリくるんで、それを剥がせれば一気に局面を変えることができます。そういう意味では自分の特徴を出しやすい相手だったと思います」

イタリアには昨季のセリエAで4位に大躍進したボローニャの主力MFジョヴァンニ・ファビアンや、イタリア王者インテル期待のFWセバスティアーノ・エスポジト、ウクライナにも昨季の国内リーグで10ゴールを挙げ、UEFAチャンピオンズリーグでもゴールを挙げた長身FWダニロ・シカンなど、保田が以前から映像を通して知っていた選手もいた。

「イタリアにもウクライナにも、セリエAやCLでプレーする素晴らしい選手たちがいて、彼らと試合をする中で、自分のプレーをしっかりと出すことができました。そのうえで通用するプレーと、逆にまだウイークになる部分もしっかりと出たことで、自分の今の実力がはっきりと理解できた良い大会だったと思います」

『保田堅心 主要スタッツに見える大きな変化』すでに攻撃面のスタッツの多くが昨季を超えるなど、プレースタイルに大きな変化と成長を感じさせる(作成:筆者)

自陣深い位置でボールを受けても、自らターンをして前を向き、プレスに来た相手の守備を剥がし、自らボールを運んで行く。そんな保田の一連のプレーはリスクが高く、“非効率”に思われるかもしれない。

しかし、強度が高い連動したプレスが当たり前となった現代サッカーにおいて、相手を引き付けてからパスを出すドリブル=“コンドゥクシオン(運転)”は高く評価される個人戦術だ。

「去年までは組み立てに徹するプレーが多かったのですが、今年はいかにゴールに近い位置で仕事ができるのか?という部分に拘ることで変化も出てきました。前線に入っていく回数は増えたと思いますし、そこでのアイデアやクオリティにも自信がついてきたところです」

現代サッカーは戦術的になり過ぎているため、中盤で1人、2人をドリブルで剥がして前へ運ぶことは相手を組織的に混乱させ、攻撃に迫力や推進力を生む。保田のプレーがダイナミックかつ躍動感に溢れるように見えるのはそのためだろう。

【新型ボランチの原点】スペイン代表、ベリンガム、F・デ・ヨング

「ボールは人より速く走れる」と指導され、パスの名手が揃うボランチにあって、保田は類まれなプレースタイルを磨き、さらに進化させている。その原点はどこにあるのだろうか?

「小学生の頃からゴール方向にプレーすることを意識付けされてきました。その時のコーチからは1対1でも相手を剥がすのではなく、“スペースへ運ぶドリブル”を意識するように指導されました。それがプロになった今でも良い方向に活きている実感があります」

保田はボランチながらドリブルを選択することが多く、時には相手DF3人ほどをごぼう抜きしていくこともある。

ただ、ボールを持っている時でも背筋がピンと立ち、相手に寄せられても上体や姿勢は崩れない。密集の中でもスペースへ運ぶドリブルを実践できるのは視野が広いからだろう。実際、ワンタッチで大きく局面を変えるパスを繰り出すことも多い。

「筋トレで体幹を含めたトレーニングはやっていますし、プレー中の姿勢を良くすることは育成年代の頃から意識的に取り組んでいます。視野の確保は、まずゴール方向から見るようにしていますけど、よくコーチから言われているのは、『常に斜め前に攻めていくイメージをもつ』ことですね。

例えば右SBがボールを持っている時は、左SHや左サイドのスペースを見て、斜め前の視野を確保しています。逆サイドを見ようとすると、自然と視界の中に同サイドの前や中央も入ってくるイメージですね」

今季第13節のヴァンフォーレ甲府戦で挙げた決勝点直後にはイングランド代表MFジュード・ベリンガム(レアル・マドリー)のゴールセレブレーションをしたことが話題に。プレースタイルが日本人離れしている保田は、どんなサッカーに影響されて来たのだろうか?

「自分がサッカーを始めたキッカケはアニメの『イナズマイレブン』でした。その影響でボールを蹴り始めた頃に2010年の南アフリカW杯があり、完全にサッカーにハマりました。その大会で初優勝したスペイン代表を観て、それがキッカケで小学校の頃はJリーグよりも、ずっとスペインのラ・リーガを観ていました。

ベリンガム選手は自らボールを奪って、ゲームを組み立て、ゴール前にも入って自分でゴールまで奪う。守備面でも攻撃面においても何でもできる選手で、現代サッカーにおける模範的なMFだと思います。自分と年齢が2つしか変わらないんですけど、観ていても参考になるプレーが多い選手ですね。

他にも海外のボランチの選手はよく観ているのですが、特にバルセロナのオランダ代表MFフレンキー・デ・ヨング選手は自分が中学生の頃からよく観ています。

当時のデ・ヨング選手はアヤックスに所属していて、時にはセンターバックとしてもプレーしていました。引いた位置からスイスイとドリブルで相手を剥がして、運ぶ距離も長く、パスを捌くのも上手い。守備も上手いですし、ちょっと意識して真似をしたりもしましたね。

それと、アニメは『キャプテン翼』も好きでよく観ていました」