――実際のプロダクト開発に関しては、ある程度キャッチボールをしながら進めていくのかなと思います。今回のユニフォームは『FIRE』がコンセプトですが、やはり1998年の『炎』をモチーフに取り入れた日本代表ユニフォームのイメージに通じるものを感じます。これをいま復活させた理由というのは、どこから来たアイデアだったのですか?

『FIRE』のコンセプト自体は、私たちアディダス ジャパンからの提案として今回始まっています。

ただ、もちろん『FIRE』というコンセプトは、98年のユニフォームで『炎』を題材にしたコンセプトのユニフォームはありましたけど、そこを復活させようという意図はまったくありませんでした。

むしろどちらかというと、そこ(98年のデザイン)に近づかないよう、別の形で出していきたいという思いが最初からあったんです。

98年もフランス絡みでしたし、「点と点をつなげていったらこの形にたどり着いたんでしょう」みたいには、逆に思われたくなくて、そこはすごく意識した部分でした。

この夏の大舞台においては、やっぱりそこで輝く選手たちの姿をまずは想像して…。私たちとしても前回の大会ですごく悔しい思いをしました。もちろんチームもそうだと思いますが、私たちも開催地であったにもかかわらず、直接応援することもできませんでした。

本当に悔しい思いをしたなかで、一度火が消えてしまったところに、もう一度灯していきたい、次は完全燃焼したい、という思いが始まりです。

98年の出だしがどういった気持ちでユニフォームをデザインしたのかは分かりませんが、今回の24年のユニフォームに関してはそういった思いで始まっています。

――そういった思いが込められていたのですね。今回、デザインが出来上がっていく過程において、今のデザインにある程度近いものが最初から出てきた感じだったんしょうか?

毎回あるんですけど、何回かキャッチボールをしながら、「もっとこういう風にしたい」といったやり取りは発生します。

ただ、今回すごく良かったのは、日本人をよく知るチームと一緒にデザインのプロセスもできたので、どういうアプローチをしたら日本国民にとって美しいと思われるか、「着たいな」とか「かっこいい」と思ってもらえるか、みたいなところは比較的早い段階から一緒にすり合わせができたと思います。

もちろん、色味や色のトーンであったり、グラフィックの作り方、配置みたいなところは細かい調整もあるんですけど、大枠のところはわりと早い段階からガチっとハマったなという印象でしたね。

――ヨウジヤマモトというと、パリのイメージがどうしても強いです。Y-3起用の一番の理由はそこにあるのかなと感じるんですが、今年は日本サッカー協会(JFA)とアディダス ジャパンの直接契約が始まってちょうど25周年でもあります。このタイミングだから今回のようなことが実現した部分もあったのかなと想像したりするんですけど、そこは単なる偶然ですか?

そこは申し訳ないですが、偶然になります(苦笑)。あまりというかまったく意識していないところで、こういった質問いただいてそういうこともあったんだなというのが正直なところです。

また、「パリ」というところも実はコラボレーションの一番の理由ということではなくて、今回は日本のサッカーファミリーに対して、どうやったら新しくて、より効果的な、そして受け入れてもらえるかというアプローチがどのようにしたらできるかということを念頭に置いて考えを始めました。

というのも、私たちアディダス ジャパンにとって、日本の中でどうしたらサッカーというものを文化としてより根付かせていくことができるか、というのが以前から掲げているビジョンなんです。

常日頃から海外のようにサッカーの話題が溢れているというか、イギリスやドイツなどサッカーが中心の世の中が片や存在しているなかで、日本はまだそこまでは行けていません。もちろんアプローチは異なると思うんですけど、同じようにサッカーを文化として根付かせたいというのがあります。

じゃあ、どうやって今回そこに根付かせにいこうかというアプローチを考えているなかで、より若い世代をターゲットにすることを考えました。

そうするためには、もともと大きなカルチャーが存在するファッションのレンズを通して、サッカー日本代表ユニフォームを…もちろん「ピッチのユニフォーム」であることは当然なんですけどそれだけではなく、「ストリートのユニフォーム」にしたいという思いもあったからなんです。

そこで、次世代のサッカーファミリーを担っていく若い世代の人たちにも人気が高いY-3とサッカー日本代表のコラボレーションというのは、すごくマッチするなということで提案させていただいたという流れでした。

――アウェイユニフォームが今回、白と赤で構成されています。今までありそうでなかったと思いますが、どういう形で決まっていったんですか?

たしかにそうですね。今まででしたら白ベースに、赤は入っているものもありましたけどアクセントカラーとして使っていたことが多かったと思います。

今回、まず大きなコンセプトとして『FIRE』というものがあります。

それとは別に、ホームとアウェイそれぞれにサブタイトルみたいな感じのもので、白のアウェイユニフォームに関しては同じ『FIRE』でも、赤く、これからどんどん大きくなっていく炎というのをイメージしてデザインに落とし込んでいます。どんどん熱くなって、大きくなり、強くなっていく。そういったところを表現しました。

一方で、ホームユニフォームに関しては、青いユニフォームでさらに青い炎をそこに採用しています。青い炎は、いままさに燃え盛っていて、ものすごく熱い炎、温度の高い炎です。

ホームとアウェイで2つの別々の炎を表現するという意味で、アウェイには白に赤の炎を使ったことにより、色のストーリーや炎の考え方、デザインのアプローチとしてもしっくりくる形になりました。

今回、青いユニフォームに赤い炎を載せるのではまた全然違ったと思います。その点においては、白いユニフォームに赤い炎というのが100%マッチしたと思うので、白と赤の珍しい、今までになかったコンビネーションになっています。