【歓喜と憤慨のマンチェスター・ダービー】

キックオフを前に、「狸め!」と一杯食わされた。いや、今までに何度も食わされているし、これもまたいつもどおりなのだが。ユナイテッドのスターティングラインナップに、バレンシアとクレヴァリーが名を連ねている。特にバレンシアは怪我により欠場が濃厚となっていたが、隠し玉というか、サー・アレックスが得意とする「死んだふり」に見事やられてしまった。ミッドウィークのCLでもルーニーが右サイドでプレーしていたこともあり、この試合もルーニーが右に廻るかと思われたが、見事にすかされることになった。

昨シーズンは屈辱のダブルを食らってしまった故に、サー・アレックスのモチベーションも昨季以上だということはこのことからもひしひしと伝わってきた。

序盤はシティペース。ボールを回しながら少しずつズラされてゴール前まで運ばれる。バレンシアが裏をあっさり取られて、絶好のクロスを入れられるも、バロテッリが外してくれて助かった格好に。徐々にポゼッションを戻してゆくユナイテッド。ピンチの後にチャンスあり、逆もまた然りだが、先制点は、ユナイテッドの逆カウンターのような形から生まれた。

ヤングがうまく前線に運び、数的不利もルーニーがうまくマークを外す、ハートの反応できないうちに逆をとって撃たれたシュートは、力が無いながらもゴールへと吸い込まれていった。押し込まれながらも先制に成功したユナイテッドは、徐々に試合の主導権を握り始める。コンパニが20分過ぎに交代をしたことも手伝い、流れはユナイテッドへ。

右サイド、オーバーラップしたラファエウからのマイナスのクロスにルーニーが二列目から飛び出し合わせて追加点。シティは縦横無尽にピッチを走るルーニーを捕まえ切れず、そのルーニーはサー・ボビー・チャールトンの持っていたダービーでのゴール記録の更新、同時に自身のプレミア通算150ゴール目も記録することとなった。

これで完全にリズムを失ったシティと、完全に主導権を取り戻したユナイテッド。前半はこのまま終わりを告げた。

一人ひとりの守備意識が高く、よく走りきっちり潰そうとするユナイテッド。序盤はヤヤ・トゥレのパワーに手を焼いていたキャリックも、徐々に慣れることで、中盤での主導権をあっさり握らせず、またシルバに対しても全員で厳しくチェックにいっていたことで、ボールは持たれてもいい形でのプレーはさせなかった。それとともに、シティはバロテッリの軽いプレーが目立ち、徐々にそのリズムを失っていった。彼のプレーの散漫さでアグエロは完全に消え、いい形で前線にボールが入ることはハーフタイムの笛がなるまではほぼなかったように感じた。

先制後はほぼ完璧なペースで試合を進めたユナイテッドであるが、流れが傾けば二点差のリードなどあっという間になくなってしまう。懸念と言えば、ほぼ機能していないバロテッリが交代することで、シティの前線が活性化することと、かなりの部分を流していた主審が、どのタイミングでカードを出すか、ということだった。流れが前半のこのままのペースで行く事は無いだろう。なにせここは赤いユニフォームをまとったサポーターのほうが少ないスタジアムだ。そのため、苦しい状況になることはわかっていたが、カードが出る選手とタイミングによっては耐えるプランが崩れる可能性が有りそうだ。少しの不安と、昨季のリベンジに期待する気持ちが入り交じって、後半の開始の笛がスピーカー越しに鳴った。

48分に、前半から痛みが見えていたエヴァンズがスモーリングと、51分にはしびれを切らしたマンチーニが、バロテッリに替えてテベスを投入した。予想した通り後半のターニングポイントはまずここだった。リオ・ファーディナンドがソリッドな守備を見せる一方で、テベス投入は消えていたアグエロを生き返らせた。リズムが徐々にシティに戻り始める中で、ファン・ペルシーが右足でポスト直撃のシュートを放つ。このリバウンドをヤングが押しこむがオフサイドの判定。リプレイで見ると奥で残っており、オンサイドなのだが、追加点を逃した代償は大きかった。先制点とは逆の形で、リスタートから逆カウンター、いい形でゴール前に持ち込まれ、デ・ヘアのビッグセーブ連発も実らず、60分にヤヤ・トゥレが反撃の狼煙となるゴールをねじ込んだ。

ピンチの後にチャンスあり、ユナイテッド的にはチャンスの後のピンチを凌げずに、一気に流れはシティへ。リオがあわやのミスをするなど、そのバタバタ具合はユナイテッドをハートの守るゴールから遠ざけていった。やはりテベス投入でアグエロが復調し、前線の守りどころを絞りきれなくなったところからやられてしまっている。加えて、停滞するオフェンスはサプライズ出場のバレンシアによるところが大きく、ユナイテッドのオフェンスのリズムは彼が乱していたと言っても過言ではない。ボールを持ってもシュートで終われずに、ミスからカウンターで嫌な形を作られる。元気であったルーニーもミスが目立ち始め、チームとしても苦しくなり、エティハドの空気は水色一色となっていった。

84分にヤヤ・トゥレが「スーパーサブ」として結果を残すジェコに替り、ユナイテッドもバレンシアを下げ、ジョーンズを投入、守り切ろうという体勢に入った。

しかし思惑はうまくいかない。86分、CKのこぼれ球をサバレタが蹴りこみ、エティハドの空気は最高潮に達した。結果としてのドローは、ユナイテッド的には悪くはなかったが、二点差を追いつかれたことは非常に落胆する材料となる他ない。残り時間と勢いからいって、逆転を目指すシティとエティハド・スタジアム、凌ぎたいユナイテッド。アディショナルタイムを含めて残り5分以上をかけた攻防は、マンチェスター・ダービーや首位決戦という戦いを表すものとなった。 91分、ラファエウが倒され、絶好の位置でユナイテッドがFKを獲得。角度的には左足。ルーニーとファン・ペルシーが相談し、体勢に入るのはファン・ペルシーただ一人。その左足が振り抜かれ、ナスリの出した脚でディフレクトしたボールは、ハートのキーパーグローブの先を通り、見事にゴールへと吸い込まれた。そのゴール裏に陣取る赤い悪魔のサポーターとその前で歓喜するユナイテッドの選手、落胆するシティの選手とサポーター、投げ込まれる青の発煙筒、コイン、乱入者。言うまでもなく、ユナイテッドにとって劇的な、シティにとっては悲劇的なFKは、フラストレーションを一気に噴出させた。リオにあたったコインは、彼の流血を引き起こしたが、試合には戻り、そのまま凌ぎ切ったユナイテッドが、アウェーでの勝ち点3、そして勝ち点6差をつける勝利をもぎ取った。歓喜と憤慨が同時にやってきたが、単に一方的な怒りをシティ側に押し付けられない過去がユナイテッドにもある。サポーターが本拠地でベラミーの後頭部にコインとヒットさせた「前科」があるからだ。とは言え今回の愚行が許されるはずはないだろう。

こうして後味の良くない出来事もあったが、大事に至らなかったこともあって、赤いユニフォームを着た側の人間にとっては、美味しくビールのための最高のつまみとなったことは言うまでもない。別にサッポロでもアサヒでもキリンでもハイネケンでも発泡酒でも第三のビールでもなんでもいいのだ。銘柄よりも大切な味。それはダービーでの勝利という味であることは、みなさんご存知だろう。ハイライトを何度も繰り返し見ながら飲み始めたアルコールは、最高の気分と翌日の朝に気持ちの良い頭痛をもたらした。

 

筆者名 db7
プロフィール 親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
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