外国人選手が「助っ人」ではない世界

試合当日。ミーティングと食事を済ませた選手たちとバスに乗り、スタジアムへ向かった。セルビアの地元メディアや数名のサポーターが、あの小さな私たちのホームタウンから遠征してきて、選手たちを待っていてくれた。

スウェーデンにはユーゴスラヴィア紛争の際に国を逃れてきたセルビア系住民が多い。そのためスタンドにもセルビアの国旗がはためいている。

なんだかとても懐かしい気持ちになり、選手たちも笑顔で手を振っていた。スタッフもサポーターも含め、その場にいる皆が心を一つにするあの感覚。これぞアウェイ遠征の醍醐味である。

スパルタクのホームタウンであるスボティツァは人口10万人程度の小さな地方都市
実に様々なルーツを持つエスコートガールたち。欧州の女子サッカーらしい光景だ

対戦相手のローゼンゴードには、この夏に東洋大学から移籍した門脇真依選手が所属している。選手たちもスタッフも「1stレグでヤパンカ(セルビア語で日本人女性の意)がとても良かったから、彼女には気をつけないと」と口々に言っていた。

門脇真依選手。警戒していたはずなのだが、この日の1点目は彼女のゴールだった
この日メンバー入りしていたスパルタクの選手のうち、外国人選手は5人(アメリカが2人、カナダ、ブラジル、ガーナがそれぞれ1人)、対するローゼンゴードは北欧諸国やスコットランド、ドイツ、日本から総勢8名の外国人選手登録があった。

さらに、登録上の国籍がスウェーデンである選手も、アフリカ系や中東系などさまざまなルーツを持っている。ピッチ上でプレーしている選手の中で「誰が外国人なのか」という認識はもはや全くもってナンセンスである。

ローゼンゴードのIsabella Obaze選手(デンマーク、左)とスパルタクのDoris Boaduwaa選手(ガーナ、右)
9月にデンマークで1次予選を撮影した際にも、欧州女子サッカー界の多様性に富んだ環境を肌で感じたが、ここではさらに一歩進んで「インクルージョン(包括的)な世界」が広がっていた。

多様(ダイバーシティ)であることはすでに当たり前の光景で、ここで国籍はハンデでもアドバンテージでもない。ピッチ上ではみな平等だ。アジアでよく言われる「助っ人外国人選手」という感覚とは全く別世界である。

Kaela Hansen選手(中央)。カナダ国籍のアジア系選手
Tijana Filipovic選手(右)。唯一の得点となったが、さすがに笑顔はなかった

試合は5-1で門脇選手が所属するローゼンゴードの勝利。我がスパルタクは終了間際にセルビアリーグ得点女王のフィリポヴィッチ選手が決めた1点のみで、CL本戦出場はかなわなかった。