急騰する女子選手の価値と、セルビアでの実態
近年、欧州では女子サッカー選手の価値が急激に上がっている。
なでしこジャパンの長谷川唯選手らが所属するイングランドFA女子スーパーリーグや、昨シーズンの女子CLを制した女王バルセロナなどには、日本円で年俸5000万円以上を受け取る女子選手も出てきている。
しかし、セルビアの女子スーペルリーガ(1部リーグ)では、超名門クラブのスパルタクであっても、待遇面でも環境面でもまだまだ発展途上だ。
選手にはっきり「いくら?」と聞いたわけではないが、20代前半の外国人選手の年俸は「セルビアで暮らしていける程度」だという。
ちなみにセルビアの平均月収は物価高騰とともに上昇していて、CEICのデータによると2023年8月時点で15万円程度。この10年で3倍近く上がっているが、スパルタクのホームタウンであるスボティツァに住んだ体感としては、地方都市の平均月収はおそらくそこまで高くない。
チームには10代の選手も多く、高校や看護学校、大学の体育学部などに通いながらプレーを続けている者もいる。しかし、ここから多くの選手が西欧の強豪クラブに移籍しており、イェレナ・チャンコヴィッチ選手のようにチェルシーまで上り詰め、セルビア女子代表のエースとして君臨することも不可能ではない。
この夏の女子W杯で決勝トーナメントに出場した代表選手の多くが欧州クラブでプレーしている…という事実からも、「女子CL出場クラブに所属して欧州のハイレベルなサッカーに触れられること」による恩恵は計り知れないものであると分かる。
それは選手だけでなく、フォトグラファーの立場であっても同じことが言える。
これまでに私は、男子のUEFAチャンピオンズリーグ予選でレッドスター・ベオグラードの試合を撮影したことも、セルビアA代表のEURO予選を撮影したこともあるが、それはあくまで取材者としての経験だった。
今回のUEFA女子CLプレーオフ(2次予選)には、チームの一員として参加した。この試合のピッチは、私の経験上、おそらく今まででいちばん世界の頂点に近い場所だったと思う。
トップレベルの選手が集まる頂点に近づけば近づくほど、チーム内は多様性に富む。試合に臨む過程も含め、国籍は関係なくみな平等であるに違いない。
「ダイバーシティ(多様性)」の先にある、「インクルージョン(包括的)」な世界。セルビアの地方都市からチームとともに海外遠征して、世界の頂点を垣間見た。ああ、もう、なんてアメイジングな私の人生…!
日本の女子サッカー界から、選手はもちろん、トレーナーやクラブ関係者もぜひこの世界を体感してほしいと思う。欧州に挑戦する者が増えること、それは必ず日本の女子サッカー界の向上に繋がるはずだ。
門脇真依選手所属のローゼンゴードは、日本時間12月22日未明にスペインで昨シーズンCL女王のバルセロナと対戦した。
残念ながら門脇選手は怪我でメンバー外となり、試合も7-0と女王の前に為す術なしだったようだ。ただ女子チャンピオンズリーグのグループステージは2試合が残っている。今後の活躍を楽しみにしたい。