“万能型FW”大滝麻未の活用術
→守備への献身で得点力を下げない仕組み
シーガルズは球際の強さや攻守の切り替えの速さなど、ハードワークで勝って来たチームだ。オーソドックスな<4-4-2>のシステムを組む中、2トップにも守備への貢献を求められる。
シーガルズの2トップが守備ブロックに入るのは、主に相手ボランチへのパスコースを遮断するため。つまり、2トップが守備に入る位置は相手のセンターバックとボランチの間なので、味方がボール奪取した瞬間には自然と相手DFラインとボランチの間の“ライン間”でフリーで受けられるような仕組みになっている。少しサイド寄りに動けば、それは欧州サッカーのトレンドでもある「ハーフスペースの崩し」と同じ現象であり、効果的な攻撃になる。
大滝がなでしこリーグ2部で別格の異彩を放ちながらも密着マークを受けているように見えないのは、大滝自身が守備を積極的にしているため、相手DFもマークしようにもできないのだろう。そして、その守備への献身が逆に効果的な攻撃に繋がっているため、得点力の低下にも繋がらない。実際、シーガルズは勝点で13差をつけられて伊賀に独走優勝を許したが、得点はその伊賀よりも多く、リーグ最多の32得点を記録している。
また、カウンター攻撃を仕掛ける際、FWに求められる能力は多岐にわたる。単純なポストプレーだけでなく、数的不利でもボールを収められるキープ力と、そこからのゲームメイク力やチャンスメイク力を求められる。これらの役割をこなしながら、ゴール前での決定力を発揮できるような万能型FWが必要だ。
今年4月に取材した際、大滝は自らの役割について、「下がってボールを受けてから、どれだけ速くゴール前に入っていってシュートに絡めるか?その回数を増やしていくことが今の自分の課題」と話していた。
そう考えると、好きな選手にエジルとアザールを挙げるのも意外ではない。そして、その課題を克服できたからこそ、得点女王に輝いたのだ。
『2018プレナスなでしこリーグ1部・2部入替戦』
相手は、1部9位の日体大FIELDS横浜!
入替戦の相手は日体大FIELDS横浜。昨季2部で優勝して1部に初昇格したものの、2部MVP選出のMF伊藤香菜子、元日本代表のレジェンドFW荒川恵理子ら主力の複数が他クラブに移籍。戦力ダウンした状態で今季の1部を戦い、9位に終わった。
ただ、シーズン途中に3バックに変更して守備を建て直しながら後方からのビルドアップの安定も身につけ、チーム力を上げながら入替戦に挑んで来る。シーガルズから見れば、1部では9位とはいえ、“格上”だ。しかも、2部には3バックのチームが少ないのも懸念される。
そんな中、得点源であり、ゲームメイクもこなしながら守備にも貢献できる万能型FW大滝の存在は頼もしい。語学堪能で頭の回転も速い彼女なら、試合中にも相手の出方や試合展開に合わせたプレーを選択しながらチームを牽引するだろう。入替戦が楽しみだ。
写真提供:ニッパツ横浜FCシーガルズ
筆者名:新垣 博之
創設当初からのJリーグファンで女子サッカーやJFLを取材するフットボールライター。宇佐美貴史やエジル、杉田亜未など絶滅危惧種となったファンタジスタを愛する。趣味の音楽は演奏も好きだが、CD500枚ほど所持するコレクターでもある。
Twitter: @hirobrownmiki