「五分と五分だった。でも…」
G大阪は前半の勢いをそのままに、昨季のJ1王者を自分たちの流れに飲み込みたかったが、決定機を逃して主導権を相手に奪われた。倉田はドリブル突破からチャンスを生み出そうとするが、なかなかシュートチャンスにつながらなかった。
「攻撃的スタイルがガンバなので、そこはもっと出したかった。去年から積み上げてきたものを出すだけだったけど、回数が少なかった」
神戸は前線にいち早くボールを供給し、相手の最終ライン付近で好機を伺った。高い集中力で守り続ける青黒のイレブンは、神戸の酒井が前線に上がった際に空く左サイドのスペースを利用したかった。指揮官はその狙いをチームに共有していたが、「ブロックを崩せなかった」と肩を落とした。
倉田は「経験があるので、試合をつくることを課せられていた」と与えられていた役割を明かしたが、守備にも汗を流したベテランは徐々に失速して後半10分に交代した。
するとゲームは後半19分に動いた。G大阪は相手GKからのロングボールをFW大迫勇也に拾われると、左サイドでパスを受けた武藤にボックス内へ侵入された。
陣形が乱れたG大阪は中の枚数こそ足りていたが、戻りながらの守備は武藤が中に出したパスへの対応を難しくした。弾いたクリアボールは小さくなり、こぼれ球を宮代に押し込まれ、先制点を奪われた。
倉田が危惧していた展開だった。
「前半は流れ的に悪くなかったので、仕留めるところを仕留めて、相手陣地でプレーしたかった。ただファイナルは形とか、戦術よりもそれ以上のものが大きい。最後は向こう(神戸)が気持ちでねじ込み、俺らはそれを止められなかったし、ねじ込めなかっただけです」
失点後、何度かチャンスに恵まれたが、どれもゴールにねじ込めなかった。試合はそのまま宮代の得点が決勝点となり0-1で終了。ガンバは天皇杯準優勝となり、9シーズン連続の無冠が確定した。
優勝した神戸の選手たちは口をそろえて『いい内容ではなかった』と試合を振り返ったが、ここ数年で培われた勝者のメンタリティが、試合の明暗を分けた。
倉田は「(内容は)五分と五分だったと思います。でも神戸の方が勝負強かったと思うし、相手も前半からそこまでチャンスがない中で、1発で決めてきた。その差はある」と、「勝負強さ」を試合のポイントとして挙げた。
試合終了後、ピッチには涙を流す宇佐美の姿があった。エースとともに長年に渡ってG大阪を支え続けた倉田は「みんなで勝ちたい気持ちを出したと思うし、それでも相手が上回っただけです」と、この試合に懸ける想いは特別だった。
それでも『宇佐美不在』を嘆くことはなかった。聖地国立で力強く闘った戦士たちは、J1残り2試合で有終の美を飾り、来季へつなげたい。
「今年積み上げてきた支配するサッカーを、決勝の舞台で出せなかった。まだまだチームとして未完。完成されていない」と背番号10。名門復活を目指し、この敗戦を未来の勝利につなげる。
(取材・文 浅野凜太郎、写真 Ryo)