Qoly読者の皆さん、こんにちは。10月になっても真夏日という不思議な天気が続いていますが、いかがお過ごしですか?

9月8日の早朝、ブエノスアイレスでのIOC総会で、2020年夏季オリンピック(五輪)・パラリンピックの東京開催が決定しました。Qolyでは滝川クリステルが「お・も・て・な・し」と微笑んだ少し前、「今夜決定!2020年五輪開催候補地をサッカーの視点から見てみよう」をアップしましたし、私も1月に「Bid for 2020 -五輪候補3都市のサッカー会場比較」を書きました。こちらでのイスタンブール紹介で少し書いたように、かつてのビザンツ帝国の首都・コンスタンティノープルでオリンピックが開催される意義はすごく大きいと考えていたので、東京開催は意外でしたが、決まった以上は少しでも良い大会にしたいと考えています。

さて、この2020年東京五輪・パラリンピックでメインスタジアムになるのが新しい国立競技場です。今回はこの新スタジアムを巡る建築界での議論を紹介し、そこから見えるサッカーファンとしての意見を上げたいと思います。

なお、相も変わらずの長文ですので、前回コラムの「天皇杯」クイズの正解は、次回に繰り延べさせて下さい。

「新・国立」までの経緯とデザイン

では改めて、新国立競技場の計画とデザインについて見ましょう。

1958年に完成した「国立霞ヶ丘陸上競技場」は1964年の東京五輪会場となりましたが、既に建築から半世紀以上が経過し、老朽化が明らかになっていました。そこで2012年2月、現在の競技場を全面的に解体し、8万人を収容でき、もし決定すれば2020年五輪・パラリンピックのメイン会場となる最新鋭のスタジアムが建築されると発表されました。これは1924年完成で1943年には学徒出陣会場ともなった「明治神宮外苑競技場」から数えると3代目となります。現在の国立競技場は2014年7月を最後に閉鎖され、新スタジアムは2019年の完成を目指します。ですので、現在2回戦まで終わった天皇杯でも「SAYONARA国立」キャンペーンに協力しています。

 注:「第93回天皇杯の現在・過去・未来」

この「新・国立」は国際デザイン・コンクールとなり、全世界から46点の応募があった中、最終審査に残った11点の中から2012年11月30日に最優秀作品を含めた審査結果が発表されました。その作品達は、主催者で現在の国立競技場も運営する「日本スポーツ振興センター」の新国立競技場ページで見る事ができます。

☆新国立競技場 国際デザイン・コンクール
「最優秀作品候補」
 http://www.jpnsport.go.jp/newstadium/Default.aspx
「最優秀賞・優秀賞・入選」
 http://www.jpnsport.go.jp/newstadium/Portals/0/NNS...

最終案に4作品が残っていた日本勢の最高は3位相当の入選でした。SANAA事務所の共同代表である妹島和世がSANAAと日建設計の共同提案で示した、環境との調和を重視した曲線屋根のデザインです。

そして最優秀賞はイラク出身、現在はロンドンで活躍する女性建築家、ザハ・ハディドの案が選ばれました。前衛的で大胆なデザインを得意とし、2012年のロンドン五輪では水泳会場の設計を担当しました。

既にご覧になった方も多いでしょうが、新国立競技場のデザインもハディドらしい斬新なアイディアにあふれています。流線型の巨大な可動屋根が他を圧倒し、安藤忠雄を委員長とし、小倉純二サッカー協会会長(当時)や都倉俊一(ヴィッセル神戸の都倉賢のおじ)も参加した審査委員会でも極めて高い評価を与えられました。その現実化には調整が必要なものの、日本では初めてとなる彼女の独創的な作品が6年後に登場するはずです。

ところが、これに対して同じく建築家の槇文彦が問題提起をし、話題となっています。槇の寄稿は日本建築家協会(JIA)の機関誌である「公益社団法人日本建築家協会JIAマガジン295号」(JIAマガジン)に掲載され、同誌の古市徹雄編集長が行ったインタビューと共に日経BP社の建設・不動産向け総合ウェブサイト「ケンプラッツ」に9月17日付で掲載されました。

そしてこの問題提起を受け、10月11日に多くの建築家を含む有志による発起人が集い、シンポジウム「新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える」が開催されます。

今回は日本建築家協会の御許可をいただいたので、その内容を引用しながら、槇の指摘する「問題提起」の内容と、サッカーファンである私から見た、スタジアムそのものについての意見を書いてみます。

なお、槇の寄稿やインタビューは9月8日早朝の2020年大会招致決定より前に行われた事が明らかにされています。また、この文章も、当然ですが敬称略です。

【次ページ】槇文彦の経歴と新スタジアムへの疑念